「今年4月から、アスキー・メディアワークスやメディアファクトリー、角川マガジンズなど傘下にある出版8社、いわゆるオールKADOKAWAの出版物を、取次会社を介さずにアマゾンに直接納品し始めた。今年に入ってその話題で業界はもちきりだったが、KADOKAWAはそれだけにとどまらなかった。アマゾンとの直取引と同時に、大手書店の紀伊國屋書店とも直取引の実験を始めたのです。ただ、商品管理が高度にシステム化されたアマゾンとは異なり、書店現場でこれだけ膨大な商品を管理するのは難しいようで、うまくいっていません。KADOKAWAには主要な取引書店を特約店として囲う『36法人会』というものが存在しており、これら書店法人との直取引を見込んで大胆に舵を切ったのではないか。そして直取引の機能を担うのが、所沢に建設するロジスティクスセンターであることはいうまでもないでしょう」
つまりKADOKAWAは、もう出版業界に取次会社は不要と考えているのだろうか。昨年、取次3位の大阪屋が経営危機に陥り、楽天ほか大手出版社が資金を捻出して債務超過を解消した。その際に角川氏は他の大手出版社に協力を求めるために、「取次を救済するのではない。その先にいる書店さんを救うためだ」と訴えた。角川氏が絶えず見据えているのは、販売拠点である実店舗とネットの書店なのである。
KADOKAWAの狙い
ただ、「取次を外す」のは、そう簡単ではないと出版業界関係者は言う。
「取次はいわば、出版社とアマゾンとの間で壁となってくれていた部分もある。取次とアマゾンとの販売報奨などの交渉は、かなり熾烈なもののようだ。出版社はそういう交渉を毎年アマゾンと互角に行えるのか」
果たしてKADOKAWAは、疲弊していく書店と直取引することで、書店の利益率の改善につなげようとしているのか。それとも、縮小していく業界で、取次機能がいずれは不要になるものと見越しての行動なのか。取次不要論は極論すぎるきらいもあるが、KADOKAWAが、縮小する出版業界において新たな流通イノベーションを起こそうとしているのは間違いなさそうだ。「業界3者による利益分配」のモデルは、もう終わりを告げようとしているのかもしれない。
KADOKAWAという大手出版社が、アマゾンと直取引を始めた――この報道の裏側には、「将棋5段」の腕前を持つ角川氏の深慮遠謀が潜んでいるのかもしれない。
(文=佐伯雄大)