「この動議を受け、議長の日枝久会長は会場に同意を求め、拍手による賛成多数ということで総会を終わらせました。今回動議を出した株主は60歳過ぎに見えましたが、社員やOB、関係者の可能性があります。そうだとすれば、フジHDが自社側に都合の良い動議を出させる自作自演ということになります。実は同社は、社員株主に質疑打ち切り動議を出させる手法を、ライブドア事件で注目された2005年の総会まで使っていましたが、顧問弁護士から『会社法に違反し、総会決議取消事由に該当する前代未聞の不祥事となる』と厳しく注意されたといいます。以降、近年では日枝氏が議長権限として強引に総会を打ち切っていました」
今年の総会では質疑の時に、ある株主がこう暴露した。
「昨年の株主総会について、総務局が作成したメモを入手しました。昨年の質問者は16人。そのうちの2番目、3番目、5番目、6番目、8番目、9番目、10番目、11番目、14番目。つまり質問が認められた16人のうち、9人、率にして56%が社員株主だったのです。リハーサルをやって、日枝さんが社員株主を多く指名するようにしていて、一般株主が質問する機会を奪っている」
総務局というのは、株主総会の運営を取り仕切っている部署だ。だとすれば、「そのメモは立派な内部告発とみるのが自然」(前出記者)。社員株主が何番目の質問者なのかも具体的に指摘している。もし株主総会という公の場で株主が虚偽の発言をすれば、その当人が会社側から名誉毀損で訴えられる恐れもあるが、この株主の発言に対し、日枝氏は最後まで何も答えなかった。
総会無効の可能性も
今年の総会でも例年通り、年齢的に比較的若く、壇上の議長や役員たちが発言すると懸命に拍手している株主が多数みられた。今年、質問に立ったのは17人だが、例えば2人目の男性は「個人的には、お台場にカジノが欲しい」と言い、フジHDのカジノ誘致推進にエールを送った。8人目の男性は、「午前の視聴率は好調だと聞くが、その要因は」と質問し、10人目の男性は「動画配信などのインターネット事業の戦略は」と聞いた。いずれも、会社側に淡々と事業説明させるものだった。
内部告発を暴露した株主は、“やらせ動議”による質疑打ち切りについて「訴訟を起こす」と怒りを隠さなかった。もし、質問者が会社側からの指図で質問していたことが法廷で明らかにされれば、今年の総会はすべて無効となる可能性もある。
株主総会では、太田英昭社長が退任して嘉納修治副社長が社長に昇格する人事が発表されたが、1988年にフジテレビ社長に就任して以来、実に27年もの長きにわたってトップの座に就いている日枝久氏は会長職を続投する。「太田社長1人に責任を負わせたトカゲの尻尾切りではないか」(経済記者)との見方もあるだけに、今後は日枝会長が追い詰められる展開もあるかもしれない。
(文=編集部)