FCVは、燃料である水素と大気中の酸素を化学反応させることで生み出される電気を動力として利用する。走行中に排出されるのは水だけなため、「環境自動車の本命」ともいわれ、大手自動車メーカーが開発に注力している。FCV普及に向けた課題となるのが、車両自体が高価になることと、燃料となる水素供給インフラが整備されていないことだ。
FCVの車両価格は一時期、一台あたり数億円といわれていたが、技術開発が急速に進展し、高級車並みの価格にまで下がってきた。昨年12月、世界初の量産型市販向けFCVであるトヨタ「MIRAI」は価格が約720万円で、今後の技術開発によってさらに低価格化できる可能性がある。だが、FCVが普及していない現状で、需要が見込めない水素ステーションに投資する事業者は少ない。そして水素ステーションが整備されていないことから、FCVが普及しない。
一方、世界中で水素ステーションが整備されていない中で、そこに新たな利権として目を付けたのが経産省と政治家だ。トヨタのロビー活動の効果もあって、安倍晋三政権は「水素社会」の実現を目指す方針を掲げ、国の水素関連予算を大幅に増やしている。実際に水素ステーションの整備やFCVが普及するかはさておき、エネルギー関連産業は多くの新しい利権が見込めるためで、利権に敏感な自民党政治家や経産省が手をこまねいているわけがない。
政府は、トヨタがFCVを市販する半年前の昨年6月、「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を策定、トヨタのFCVが普及する環境を整備するためとも見られる水素ステーションの整備を掲げた。その上で、設置に対する補助金の交付や規制を見直している。これに加え、今年2月には水素ステーションの運営経費を一部支援する施策を公表した。同じく昨年6月、自民党の資源・エネルギー戦略調査会は「水素社会を実現するための政策提言」をまとめ、「水素社会」の早期実現を掲げた。
運営経費のほぼ全額を補助
多額の税金を投じてFCVを普及する環境を整備する中、自動車メーカーとしてもFCVが普及する環境を整備するための取り組みを加速せざるを得なかった。そして、これに付き合わされることになったのがホンダと日産だ。