トヨタ自動車が誇る高級車ブランドの「レクサス」。北米では1989年、日本では2005年から展開されており、今年2月には、全世界での累計販売台数が1000万台の大台に到達したことが発表された。
そんなレクサスは、“ラグジュアリー・セダン”を意味する「LS」を筆頭に、ハッチバックとSUV、クーペがラインナップされている。だが、今年4月に開かれた上海国際モーターショーにてブランド史上初となるミニバンタイプの「LM」(ラグジュアリー・ムーバー)がお披露目となり、新たな話題を呼んでいるのだ。
レクサスLMには2列シート4人乗り、3列シート7人乗りという2つの仕様が用意され、前者は1列目と2列目が、26インチもの大型液晶モニターを内蔵したパーティションで仕切られている。さらにはワインなどを冷やしておける14Lの冷蔵庫が設置されているほか、後部座席にはマッサージ機能も備わっているため、至れり尽くせりな乗車体験が約束されているといえるだろう。
もっとも、中国や東南アジアでは来年の前半に発売される見込みだが、現時点で日本に導入する予定はないとのこと。そこにはいったい、どういった事情があるのだろうか。レクサスLMをめぐる状況について、自動車ライターの工藤貴宏氏に話を聞いた。
レクサスLMのターゲットは富裕層だが、中国と欧米では文化の違いも
「私がレクサスLMを見たときの第一印象は、まずフロントグリルの迫力でしょうか。レクサスLMは、同じトヨタの高級ミニバンである『アルファード』と『ヴェルファイア』が車体のベースになっているのですが、そのフロントグリルの高さは、従来のレクサスLSの約1.5倍。しっかりと高級感を打ち出しています。
それ以前に私は、レクサスから今回のようなミニバンが登場することを想定していませんでした。なぜかというと、レクサスは今まで、車のオーナー自らが運転する“ドライバーズカー”であることを主張していたブランドだったからです。
これに対し今回のレクサスLMは、専門の運転手がハンドルを握り、オーナー自身は後部座席に乗るという“ショーファードリブン”としての役割を重視しています。アルファードとヴェルファイアの最上位グレードである『エグゼクティブラウンジ』は、すでに中国や東南アジアの富裕層に人気を博していますから、その市場にレクサスが乗り込んでいこうというのは、いわれてみれば非常に納得がいく話でもありましたね」(工藤氏)
レクサスブランド全体の昨年1~12月の地域別販売実績は、中国が16万1862台で、これは5万5098台だった日本の3倍近い数字だ。確かに中国はレクサスにとって大きなマーケットになっているものの、実は昨年レクサスが世界でもっとも売れた地域は北米であり、32万3482台。そして欧州は7万6188台で、北米と中国に次ぐ売り上げである。それにもかかわらず、レクサスLMの北米や欧州での発売予定がないのはなぜなのか。