「言い方は悪くなってしまいますが、北米ではミニバンに“貧乏人の車”というイメージがついています。富裕層が移動用に使うのはミニバンではなく、レクサスや『メルセデス・ベンツ』といったブランドのセダン、もしくはSUV。また、欧州では速度無制限の高速道路・アウトバーンも存在しており、高速移動をするうえでミニバンの走行性能ではセダンに追いつけないという場面が多々あるため、ミニバンに魅力を感じにくいのかもしれません。
一方、アジアの都市部の道路では渋滞がやたらと発生しがちですし、渋滞のなかではレクサスLMのように、後部座席のゆったりした車が一番快適に過ごせるというのは察しがつくでしょう。つまり、プレミアムなミニバンというのは北米や欧州ではマーケットが成り立っておらず、アジアだけの文化だといえるのです」(同)
仮に日本でレクサスLMが発売されても、今とは外観が別物に?
なお、先述したとおり、日本でも今のところレクサスLMの発売予定はない。工藤氏は「北米や欧州とは違い、レクサスLMは日本でも間違いなくヒットする」と語るが、どうしてレクサスは即座に売り出そうとしないのか。
「一言でいえば、ブランドイメージの問題でしょう。今のタイミングですと、レクサスLMは単にアルファードとヴェルファイアの延長にしかない車だと思われてしまう恐れがあり、レクサスはそれを懸念しているのだと思います。
ただ、日本に投入される可能性もゼロではないというのが私の見立てです。先日の上海国際モーターショーで発表されたのは左ハンドル車でしたが、タイ仕様は右ハンドル車なので、日本向けに右ハンドル車を作ろうとしても、技術的にはなんら支障がないはずです。
しかし、もし本当に発売されるとしても数年先になるのではないでしょうか。これは私の予想でしかないものの、日本でレクサスLMが出る頃には外観が別物に変わり、現在ベースとなっているアルファードとヴェルファイアとは、もっと差別化が図られているかもしれません。
アルファードとヴェルファイアの現行モデルは、2015年1月にフルモデルチェンジした3代目。そこからマイナーチェンジを経ているとはいえど、モデルライフの終わりに近づいているのは事実ですから、次のフルモデルチェンジはそう遠くないでしょう。ですから、レクサスLMは新モデルとなったアルファードとヴェルファイアのメカニズムを利用しつつ、それらとは見た目が大きく異なる車として発売する――レクサスのなかでは、そのようなストーリーができあがっている気がします」(同)
最後に、この先レクサスLMは、業界においてどのような立ち位置になっていきそうかを尋ねた。
「ここまでラグジュアリーかつセダン寄りにつくられたミニバンというのは、世界的にも珍しいものです。プレミアムブランドのミニバンとしては、メルセデス・ベンツからも『Vクラス』という車種が出ていますが、実際のところ、富裕層からの評判は芳しくありません。その理由は単純で、メルセデス・ベンツはもともとの車体ベースが貨物車だということもあり、乗り心地がイマイチだからです。
ですが、レクサスLMは一般の乗用車として設計されており、そこがメルセデス・ベンツVクラスとの最大の違いだといえるでしょう。このように乗用ミニバンをベースにしたラグジュアリーモデルというのは今後、アジア発祥のブランドとして、世界を大きく変えていくのではないでしょうか」(同)
レクサスLMの販売価格は、アルファードとヴェルファイアの1.5倍ほどになると報じられており、庶民がおいそれと手を出せる車ではない。とはいえ、レクサスの発想と技術力は高級車という概念をどこまで進化させていけるのか、ロマンは膨らむばかりだろう。
(文=A4studio)