今年1月にはエンジニアリング本部と名付けた新組織を立ち上げた。発電所や高速鉄道など、海外インフラの受注関連部門を集約した。これは明らかに日立との事業統合に備えた布石だった。
日立と統合するのはガスタービンやボイラーなどの火力発電設備のほか、有害物質を抑える環境装置、地熱発電、燃料電池事業など。三菱重工と日立の売上高を合計すると1兆1000億円になる。
新会社を連結子会社にする大宮社長は、記者会見で「世界をリードする火力発電会社にしたい」と抱負を語った。発電設備の増強が必要不可欠な新興国での受注の拡大を目指す。新会社を成長軌道に乗せ、3兆円の壁を突破するという意味だ。
世界の発電事業では、独シーメンスの売上高が2兆9000億円。米ゼネラルエレクトリック(GE)は2兆5000億円。三菱重工、日立連合の売上高は世界の2強の半分にも届かない。
原子力発電事業については日立がGEと事業統合し、三菱重工が仏アレバと提携しているため、今回、統合の対象から外れた。だが、新会社が2強と渡り合っていくには、原発事業の統合が絶対に必要になる。国内の新規の原子力発電所の建設が事実上、ストップしていることもあって、日立は海外での原発建設に大きく経営のカジを切った。GEと事業統合した原発事業を将来的にどうするのかが、日立の経営課題である。日立が火力発電事業の統合の先に、「原発事業をどうするか」を見据えていることは間違いない。
火力・原発を含めた電力システム事業の売上高(12年3月期実績)は三菱重工が9553億円、日立が8324億円。単純合計で1兆7877億円。シーメンス、GEの事業規模に近づく道程は決して平坦ではない。
三菱重工と日立の電力事業の統合は、日本のビッグビジネスが世界市場を相手に戦う態勢を、ようやく整え始めたということだ。
日本のメーカーは世界と戦う前に、国内で日本勢同士の消耗戦で体力をすり減らしてきた。自動車、電機、鉄鋼などがそうだ。世界の原子力関連の主力5社のうち、日本勢が東芝、日立、三菱重工と3社を数える。世界で戦うには1社に集約しなければ勝ち目がないことは分かりきっている。
個別企業の利害が業界再編にブレーキをかけていた情況が大きく変わった。今、動かないと、日立製作所、三菱重工クラスでも危ないのだ。日立、三菱重工の首脳陣はようやくそのことに気がついた。遅いが、気がつかないよりはましだ。