日本の家電メーカーの戦場の縮図ともいえる大画面テレビという分野ではサムスン、LG電子といった韓国勢がグローバルシェアの面でこれら日本勢を大きく上回る。最新のシェアでは、韓国2社のグローバル市場での販売額シェアは44%に上るのに対して、日本の3社を合計しても20%のシェアにしかならない。
5社の中でシェアが一番低いシャープが最も早く経営危機に陥ったと同時に、現時点では構造的に一番利益を出しにくい限界地となっている。たとえばシャープの32インチ液晶テレビが利益を生む限界の4万円台で売られることで、他社の製品も同等の価格で販売される。ところが生産量が大きい韓国メーカーは同じ価格でも十分な利益を出せる。
さらに上記3社のような日本メーカーは、ブランド構築のための広告宣伝費や、多額の研究開発費を費やしている。そして本社人員は、グローバルな比較で見ればかなり高い人件費の社員で占められている。
そのようなコスト構造を必要としない台湾や中国の家電メーカー、たとえばハイセンスのようなテレビブランドは、32インチテレビを2万円台で販売しても利益が出る。
つまりシャープという限界地が存在するから、アジアのテレビ産業は相対的に莫大な利益を上げることができるのである。
●ウォークマンがiPodを支える?
ソニーの場合は、携帯音楽プレイヤーの分野でも限界地となっている。昭和の時代にはウォークマンが世界のどの音楽プレイヤーよりも高いブランドイメージを保っていて、当時限界地だったサンヨーや日立といったメーカーのヘッドホンステレオよりも、相対的に高く売れたことで高い利益を享受できていた。
現在では、かつてのライバルメーカーはすべて市場から退出し、16GBのウォークマンは、同じく16GBのiPodの巨額な利益を支える限界地に堕ちてしまっているのである。
日本経済にとって大量の雇用を生んでいるシャープの存在は重要である。たとえ株主にとって価値がないとしても、国にとって限界地企業は雇用創出という側面での重要性が残る。だからアメリカがGMやクライスラーを支えたように、国が限界地企業を支えることには一定の意義は存在する。
支えなければどうなるだろう?
いつか政府や銀行団が支えられなくなれば、経済原則にのっとってテレビ業界5位のシャープは市場から退出することになる。すると新たな限界地として業界4位のパナソニックが基準となるだろう。仮にパナソニックが市場から退出すれば、今度は業界3位のソニーが限界地となる。つまり日本製テレビは経済学的に見れば、苦境から一切抜け出せない構造にある。
そして赤字に陥ったシャープ、パナソニック、ソニーという限界地が存在するがゆえに、韓国のサムスンの過去12カ月の純利益は1.2兆円、アップルの純利益は3.4兆円と莫大な金額に上っているのである。