海外部門の赤字が膨らみ、11年7-9月期連結決算で純損失が461億円の赤字に転落。海外の人件費を中心に計12億ドル(約972億円)のコスト削減を迫られた。それで株価は急落。大和証券グループ本社に抜かれたりもした。時価総額は一時、1兆円を割り込んだ。業績悪化→株安もあって昨秋ごろから「三菱UFJフィナンシャル・グループに吸収される」といった観測が公然と語られるようになった。
海外業務への傾斜と高額報酬をもたらしたリーマン買収は、完全に失敗に終わった。というわけで、今年に入ってリーマン切りに突き進む。ホールセール部門を統括するジャスジット・バタール副社長(55)が今年1月に退任。その直後に腹心のタルン・ジョトワニ専務(51)も辞めた。インド出身のバタール氏は英オックスフォード大学卒。旧リーマンのアジア太平洋部門のトップ。野村HDに移籍し、昨年、ホールセール部門のCEOに就任したばかりだった。
バタール氏はリーマンが得意とした債券で利益を稼ぐ方針を示し、野村の自己勘定でイタリア国債を購入する計画を本社に提案。しかし、野村本社はこの提案を却下し双方に感情的な対立が生じたとされる。
リーマン買収の失敗が明々白々となり、この買収を主導した渡部、柴田の2トップの経営責任を問う声が日に日に高まっていった。巻き返しに出たのが国内営業派だ。野村證券の営業部隊は国内最強を誇っていたが、損失補填、総会屋への利益供与など”株屋体質”が露呈。97年に「証券マンはジェントルマンたれ」が持論の国際畑の氏家純一氏(現・常任顧問、66)が社長に就任。以来、古賀信行氏(現・会長、61)、渡部賢一氏と3代続けて国立大卒のキャリア官僚型が社長の椅子に就いた。リーマン買収の失敗は「国内営業を知らないトップによる机上の空論(の結果)」と国内営業組は厳しく批判した。
野村證券の新社長になった永井氏は京都支店長や大阪支店長を歴任。社長就任前は企業向けのM&Aとその助言を行う国内投資銀行部門を率いていた。会長になる多田氏は都内の旗艦店の一つである渋谷支店長を務め、就任前は営業部門のCEO。バリバリの国内営業派だ。この結果、野村HDは旧リーマン買収を主導した国際派、野村證券は国内営業派の根城となった。