野村HDの業績悪化を招いた最大の要因は、経営破綻した米投資銀行リーマン・ブラザーズの欧州・アジア両部門を引き継ぎ人件費が増加したことによる。しかし、グループCEO(最高経営責任者)として持ち株会社の野村HDと野村證券を束ねてきた渡部賢一氏(59)とグループCOO(最高執行責任者)の柴田拓美氏(59)の2トップは経営責任を取らなかった。両氏は野村證券の業務執行からは外れたが、野村HDのCEOとCOOは続投した。
一方でグループの中核証券会社である野村證券の執行役社長に永井浩二副社長(53)が、執行役会長に多田斎副社長(56)が4月1日付で昇格した。01年の持ち株会社への体制移行後、野村HDと野村證券のトップを分けるのは今回が初めてだ。
08年4月、野村HDは経営体制を刷新。渡部氏をCEOに据え、その右腕として野村アセットマネジメントから柴田氏をCOOとして呼び戻した。柴田氏はロンドンの12年をはじめ、香港、ボストンなど計17年間、海外駐在をした国際派だ。
同年9月、リーマン・ブラザーズが破綻。柴田COOは香港、ロンドンに飛び、リーマンのアジア・太平洋部門と欧州・中東部門の買収を立て続けに決めた。価値の下落の恐れがある不動産や有価証券などの資産や負債は引き継がず、投資銀行最大の財産といわれる人材に的を絞って買収を提案。「欧州・中東部門の買収価格はたったの2ドルだった」と胸を張った。野村HDは「会社を買収したというよりも、人材を買った」ことになる。野村の社員よりも、はるかに高度な金融知識、投資ノウハウを持つリーマンの社員を囲い込み、グローバルな投資銀行に脱皮することを狙った、戦略的なM&Aと解説された。
野村の社員の平均年収が1000万円台なのに、リーマンの社員は4000万円台。高給を保証して株式部門や投資銀行部門の8000人を引き継いだのだから、人件費が急増しない方がおかしい。ギリシャに端を発した欧州債務危機で、”外人部隊”がさっそく重荷となった。加えて、ホールセール部門(法人向け)の日本人社員まで、リーマンの社員と同じ成果連動型の報酬体系に変えてしまったのだから踏んだり蹴ったりだ。気がついたらどう逆立ちしても利益が出ない高コスト体質になってしまっていた。