親会社のアルプス電気との経営統合をめぐり、上場子会社でカーナビなど車載機器のアルパインは「物言う株主」(アクティビスト)2社の介入を招いた。アクティビストには、アルパインがため込んだ内部留保を吐き出させる絶好のチャンスと映った。
アルパインが2018年12月5日、東京都大田区雪谷大塚町のアルプス電気本社ビルで開いた臨時株主総会で、親会社のアルプス電気と経営統合する会社提案が可決された。経営統合への賛成比率は73.30%。可決に必要な3分の2をかろうじて上回った。アルパインが関東財務局に提出した臨時報告書で賛成比率が明らかになった。
両社の統合について、アルパイン株式の9.18%を保有する香港の投資ファンド、オアシス・マネジメント・カンパニーが「株式交換比率が低すぎる」と異議を唱えた。アルパイン株1株あたり100円の配当を支払う会社提案も可決された。オアシスは「統合否決を条件に、1株あたり300円の配当を支払う」とする株主提案をしていたが、会社提案の配当案が先に可決されたため、この株主提案は採決されなかった。
アルプス電気とアルパインは、19年1月1日付で株式交換方式で経営統合。アルパインの株主にはアルパイン株1株に対してアルプス電気株0.68%を割り当てた。統合後の企業名はアルプスアルパインとなった。
真の勝者は、会社側でなくファンドだった。アルプス電気は経営統合が実現し、名はとったが、果実をたっぷり口にしたのはファンド側だった。
香港のアクティビスト、オアシスが「買収価格が不公平」と主張
電子部品大手、アルプス電気は17年7月27日、アルパインを株式交換によって完全子会社にすると発表した。アルプス電気はアルパイン株式の40.43%を保有する親会社だ。既存株主が保有するアルパイン株1株に対しアルプス電気株0.68株を割り当てるとした。
この完全子会社計画に対し、オアシスが待ったをかけた。
オアシスは17年10月30日、「買収価格が不公正」と主張した。アルプス電気が公表した株式交換比率が、アルパインの事業価値を十分に反映していないとの見解を示し、TOB(株式公開買い付け)による買収に切り替え、価格を引き上げるよう求めた。
株式交換方式ではなくTOBによる買収に切り替え、対価を現金にすべきだと迫ったわけだ。アルプス電気はTOBに切り替えることを拒否。株主交換方式でアルパインを完全子会社にする方針を貫いた。
アルパインが18年6月21日に開いた定時株主総会で、オアシスは18年3月期の期末配当を325円(会社提案は15円)に大幅に引き上げる株主提案を行い、会社側と異なる社外取締役の選任を求めた。
大幅増配の株主提案に対する賛成比率は28.57%。米谷信彦社長を取締役に選任する議案への賛成率は71.33%で、9割超だった前年から大幅に下がった。オアシスの株主提案に3割弱の賛成票が集まったことは、アルパインの経営陣に衝撃だった。なぜなら、アルプス電気との経営統合は特別決議となるため、臨時株主総会で3分の2以上の賛成が必要となるからだ。3分の1以上の反対が出れば、統合は否決される。
キャスティングボードを握ったエリオットが会社提案に賛成
18年7月、新たに「物言う株主」が登場した。米投資会社エリオット・マネジメントは、米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)による半導体製造装置大手、日立国際電気株のTOBの際に日立国際株を取得し、その後も買い増しに動いた。KKRは2度にわたってTOB価格を引き上げて(当初1株2503円→最終3132円)、TOBを成立させた。エリオットはアルゼンチンなど国家に対する訴訟さえ辞さない剛腕のファンドとして知られる。
そのエリオットが、アルプス電気とオアシスの攻防戦に割って入った。エリオットはアルパイン株の9.78%を保有し、第2位の株主に浮上。さらに、親会社・アルプス電気についても、発行済み株式の11.2%を保有する筆頭株主に躍り出た。エリオットはアルパインとアルプス電気両社の大株主となった。
エリオットは、オアシスと共同歩調をとるのか。アルプス電気とオアシスの間に入り、キャスティングボードを握るのか。
エリオットの登場以降、アルプス電気とアルパインの対応は変わった。オアシスとエリオットが共同歩調をとれば、統合案が否決される可能性が出てきたからだ。オアシスとエリオットが手を結ぶことを阻止しなければならない。
エリオットやオアシスなど投資ファンドが追求するのは、株主還元の最大化である。株主交換比率は見直さなかったものの、アルパインは統合を条件に、100円の特別配当を実行することを18年9月下旬に発表。親会社のアルプス電気も同11月下旬、統合後に400億円の自社株買いをすると表明した。エリオットは両社の株主還元策を「歓迎する」とコメント。これで統合案の可決への流れが出来上った。
自社株買いは、株主に対する利益還元策だ。統合する新会社による自社株買いは、アルパイン、アルプス電気の双方の株主にメリットがある。エリオットがアルプス電気株を取得した狙いは、ここにあった。
統合承認のキーマンは、キャスティングボードを握り、アルプス電気、アルパインの両社に揺さぶりをかけたエリオットだった。
400億円の自社株買いを勝ち取ったエリオットが完勝
物言う株主が親子上場解消をめぐる攻防戦で勝利した。
統合会社、アルプスアルパインは1月29日、上限2000万株、284億円(自己株式を除く発行済み株式総数9.14%相当)の自社株買いを発表した。旧アルプス電気は旧アルパインとの統合後に400億円の自社株買いをする方針を打ち出したおり、アルパイン株主からの買い取り請求分(116億円)を除いて、6月末までに自社株買いをした。
さらに、第1次中期経営計画期間(19~21年度)における総還元性向を50%とする株主還元方針を実現させるため、7月から、550万株、75億円(発行済み株式総数2.6%相当)の自社株買いを実施中だ。
アルプス電気によるアルパインの買収が、どうしてこれほどまでに迷走したのか。M&A(合併・買収)の原則は、発表後にすぐさま行うことだ。発表から1年以上かけるのは、業績や株価の変動が大きくリスクが高い。アルプス電気の最初のボタンの掛け違いが、混迷の度を深めたといえる。
アルプスアルパインの4~6月期は11億円の最終赤字
アルプスアルパインの19年4~6月期決算の売上高は前年同期比2%増の2057億円と増収だったが、営業利益は39%減の58億円と減益。最終損益は11億円の赤字(前年同期は38億円の黒字)に転落した。
カメラ用のピント調整部品であるアクチュエーターがスマートフォン向けに好調だったが、車載向け電子部品の販売減や為替差損(21億円)の発生が収益を圧迫した。
主力の電子部品の売上高は4%減1105億円、セグメント利益は44%減の24億円と大きく落ち込んだ。利益率の高い車載向け部品であるモジュール機器などが低迷。電子部品のうち車載市場向けの売り上げは636億円。前年同期より70億円(10%減)の大幅な減収となった。
もうひとつの柱である車載情報機器事業の売上高は9%増の804億円と増収だったが、セグメント利益は39%減の24億円にとどまった。
20年3月期の連結業績見通しは従来予想を据え置いた。売上高は前期比2%増の8685億円、純利益は42%増の315億円の見込み。かなり強気の予想だ。
物言う株主の介入によって経営統合のスケジュールが遅れた傷痕が残る。
(文=編集部)