東芝不正会計、「甘すぎる」処分の真相 すべて予め決められたシナリオ
しかし、東芝が上場廃止の瀬戸際まで行く気配は露ほどもない。事実、第三者調査委員会報告書が公表された直後の7月28日に、日本取引所グループの清田瞭CEO(最高経営責任者)が間髪を入れずに、東京証券取引所の対応について、東芝株を上場維持しながら内部管理体制の改善を求める「特設注意市場銘柄」に指定することが有力であるとの考えを示し、上場廃止の可能性を否定している。この時点で、15年3月期の決算も過去の決算修正も発表されていないのにである。
2つ目のシナリオは、監査法人へのお咎めはないというものだ。事実、第三者委員会の報告書は、「会社組織による事実の隠ぺいや事実と異なるストーリーの組み立てに対して、独立の第三者である会計監査人がそれをくつがえすような強力な証拠を入手することは多くの場合極めて困難である」として、監査法人が不正会計を指摘できなかったことは仕方がないとも取れる表現をしている。オリンパスの件では不正経理はかなり巧妙であり、監査法人が見抜けなかった可能性が高い。にもかかわらず担当した監査法人は、金融庁から業務改善命令を受けている。
一方の東芝のケースでは、今秋より金融庁が調査を開始するとの報道もあるが、お咎めなしか、せいぜい業務改善命令で、カネボウ粉飾事件で解散に追い込まれた旧中央青山監査法人が受けたような一部業務停止命令は受けないであろう。東芝の監査を担当した監査法人は、新日本監査法人である。この監査法人は前歴が多い。オリンパス事件の時には監査を担当し、IHIが前述の粉飾決算を起こした時にも監査を担当していた。この履歴を見れば、業務停止命令も当然かと思われるが、そのようなお咎めを受ける気配はない。政府は、旧中央青山監査法人の解散を経験して、二度と監査法人は解散に追い込まず守る方針なのであろう。
もし、新日本監査法人に対して真剣な処分をしないのであれば、今後監査費用は企業が払うのではなく、株主が直接負担をするようにすべきであろう。特に、株主の視点が希薄で、人間関係で縛られ人情が効く日本のようなウェットな社会では、払い主に対して厳格かつ中立に振る舞うのはそもそも無理があろう。金融庁をはじめ、政府関係者にはぜひ一考していただきたい。
次回は、東芝はなぜかくも子供じみた不正経理を行ったのかを考えてみたい。
(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)