冠イベントや企業スポーツの中止は、銀行の軍門に下ったことを象徴する出来事といえるだろう。かつて豊富な資金力で「松下銀行」と言われたパナソニックは、銀行からの借り入れに頼ることはなかった。
10月末、今期7650億円の最終赤字を計上すると発表して、社債市場で“パナソニックショック”が起きた。取引開始直後から同社債に売り注文が殺到した。株式市場でも同様のことが起きた。11月2日の東京株式市場でパナソニックの株式時価総額が一時、1兆円を割った。1兆円割れはデータをとることができる86年以降では初めて。06年の時価総額のピーク時から7分の1に目減りした。欧米系の格付け会社フィッチ・レーティングスは、パナソニックの会社格付けを「投機的な水準」に引き下げた。
薄型プラズマテレビの不振に三洋電機の戦略的買収の失敗が重なり、有利子負債は08年3月期の3886億円から12年9月末には1兆5616億円と4倍に膨らんだ。かつて2兆円以上持っていた現金・預金は、12年9月末には4713億円にまで減ってしまった。株価は11月6日に376円まで下げた。もちろん年初来の安値。37年9カ月ぶりの歴史的安値だ。会社格付けが投機的な水準に引き下げられたことにより、社債市場からの資金調達が困難になり、「会社存亡の危機」に立たされたのである。
資金を確保するためパナソニックは銀行と総額6000億円の融資枠契約(コミットメントライン)を結んだ。融資枠を設定すると、あらかじめ決めた期間と金額の範囲内で銀行から資金を借りられる。コミットメントラインの内訳は、主力行の三井住友銀行が2500億円、三菱東京UFJ銀行2000億円、三井住友信託銀行1000億円、りそな銀行500億円である。
これからは株式や社債の資本市場に代わって、銀行の間接融資に全面的に頼らなければならない。銀行に頭を下げて資金を借りたことがなかったパナソニックの経営陣には、屈辱以外のなにものでもなかった。
<主力取引銀行の元首脳は「あれだけ銀行なんか関係ないと言っていたパナさんも、ようやく我々のいうことを聞くようになったわけや」と感慨深げに語った>(日本経済新聞12月13日付)と報じられた。
パナソニックは13年3月28日に、中期経営計画を発表する予定になっている。役員(担当)を含む大量の人事異動、収益の改善が見込めない事業の売却や中止。その前にケータイ事業の中止(撤退)も年内に発表する。今年度中にパナソニック東京汐留ビルを売却するか証券化する方針。汐留ビルは03年にパナソニックが完全子会社にした旧松下電工が東京本社ビルとして完成させたものだ。
パナソニックは他の保有不動産売却も含め、2000億円の資金を捻出する。追加のリストラを含めて単体決算ベースで14年3月期の復配、15年同期の繰り延べ税金資産の復活を目指す。中期経営計画は、銀行の意向を盛り込んだ内容にならざるを得ない。「パナソニックのシャープ化」という厳しい見方もできよう。
シャープはさらに深刻だ。13年3月期に過去最悪の最終赤字、4500億円を見込んでおり、窮地に立たされている。12年9月末時点の現金・預金は2211億円。対して有利子負債は1兆1741億円に上る。シャープも、これまでは銀行からの借り入れは微々たるものだったが、社債市場からの資金調達をシャットアウトされた結果、銀行からの融資に頼らざるを得なくなった。