中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に対する英、仏、独の出資、中国から英国への原発輸出、ドイツにおける人民元建て金融商品を扱う取引所の開設、そして独フォルクスワーゲン(VW)現地法人への中国国有銀行による支援――。このところ、南沙諸島の領有権問題で中国と対峙する米オバマ政権の神経を逆撫でするかたちで、主要西欧諸国が堰(せき)を切ったように中国との経済的な結び付きを深めている。
こうした結び付きは、西欧諸国にとってロシアの牽制策だったり、不足するインフラ整備資金の調達策だったりと、個別にさまざまな事情があり、単なる経済協力とは言い切れない側面もある。しかし、日本としては、みすみす中国に大きなビジネスチャンスを奪われ続けているという状況だ。
日本は、重量級の中国対抗策である「日―欧州連合(EU)経済連携協定(EPA)」という切り札を持っているが、ベルギーのブリュッセルで先月26日から今月6日まで開催中の交渉会合は難航しているという。速やかに、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉時のような強力な交渉体制を整えて、盛り上がった連携機運を合意につなげないと、西欧諸国におけるビジネスでいつまでも中国の後塵を拝することになりかねない。
「中英関係は黄金時代」
それまで日米2カ国が非現実的と決めつけていた中国主導のAIIB構想を取り巻く環境が一変したのは、今年3月のこと。突然、イギリスがG7諸国として初めて参加を表明し、すかさずドイツ、フランスといった西欧諸国が追随したため、一気に風向きが変わったのだ。
中国の北京で6月末に行われた設立協定の調印式には、西欧諸国だけでなく、インドやロシアのような新興国、オーストラリア、ニュージーランドのようなTPP参加国、そしてインドネシア、タイのような東南アジア諸国など、合計50カ国が集まり署名した。参加した国々は、アジア地域でのインフラビジネスを自国企業が受注するためのパスポートを手にしたと期待を膨らませているという。
そして先月21日。中国の習近平国家主席が国賓として訪英し、キャメロン英首相と会談。その席上、先進国として初めて中国製原子炉の輸入に合意した。中国国有企業がフランスの技術供与を受けて開発した大型原発「華龍1号」をエセックス州の「ブラッドウェル原発」に導入するという。建設作業にはフランス電力公社(EDF)も参加する予定だ。
英中首脳は、別の原発への中国国有企業の出資や、ロンドンを起点に英国中部を縦貫する高速鉄道の建設計画で連携することも合意した。中国にとっては、インドネシアの鉄道建設で日本コンソーシアムに勝利したのに続く、鉄道分野での大きな成果だ。今後、これら2つの実績を前面に出して、中国が世界各地で攻勢に出てくるのは確実だ。