三井不動産は、全4棟の建て替えを基本方針として、住民との協議に入っている。不動産コンサルタントのさくら事務所によれば、4棟を建て替えた場合に生じる費用は320億円(11月1日付「日経ヴェリタス」<日本経済新聞社>より)。販売主である三井不動産がいったん特別損失として計上し、その費用を元請けの三井住友建設、1次下請けの日立ハイテクノロジーズ、2次下請けの旭化成建材が案分して負担する。費用分担交渉が難航することは必至だ。
三井の危惧
三井不動産が最も気にしているのは、「三井ブランド」に傷がつき今後のマンション販売に影響が出ることである。三井不動産の事業は賃貸・分譲・マネジメント、三井ホーム、その他に分類されている。
分譲事業のうち住宅の分譲の16年3月期の営業収益(売上高に相当)は前期比4.6%増の3120億円、営業利益は10.1%減の240億円を見込む。営業収益は全社の5分の1、営業利益は4分1を占める。
住宅部門を担うのがマンション分譲の三井不動産レジデンシャルだ。ボリュームゾーンの「パークホームズ」からコンパクト型の「パークリュクス」、タワーマンションの「パークタワー」まで7ブランドを展開中。
13年度の全国マンション供給ランキングで三井不動産レジデンシャルは6557戸を供給し、全国1位になった。だが、14年度は消費増税前の駆け込みの反動で需要が落ち込み、供給戸数は4800戸。前年度と比べて26.8%の大幅な減少となり、3位に転落した。15年度は前年度比6.3%減の4500戸を計画している。2年連続してマイナス成長になる。
マンション業界は、野村不動産ホールディングス傘下の野村不動産、住友不動産、三井不動産レジデンシャル、三菱地所傘下の三菱地所レジデンスの4強の時代だ。三井不動産と三井不動産レジデンシャルは、傾斜マンションで消費者の信頼を失いライバルに水をあけられることを危惧している。
不動産・建設業界は、マンション販売とゼネコンの業績への波及を食い止めるため、旭化成建材に責任を負わせて、早期の幕引きを図ろうとしている。「急いで決着を焦るあまり、『札びらで頬を叩く』といわんばかりの三井不動産の態度は、三井ブランドへの不信をかえって助長することになりかねない」(業界筋)との声も聞こえてくる。
(文=編集部)