中型のセダンが時速100キロメートルで走るときに必要な出力は、およそ15馬力ほどにすぎない。それにもかかわらずこのクラスのエンジンの最大出力は150馬力ほどだ。この10倍もの差はどこからくるかというと、加速である。
たとえば高速道路に加速しながら余裕を持って流入するには、とても15馬力では足りない。時速50キロメートルから100キロメートルに加速するには、クルマの重さや空気抵抗の違いもあるので一概にはいえないが、少なくとも100馬力は必要だ。
たくさんの馬力を出すには、たくさんの燃料を燃やす必要がある。したがって、15馬力よりも100馬力のほうが、たくさんの燃料を燃やすことになり、一定のスピードで走るよりも、加速するときのほうが燃費は悪い。
優秀なレーシングドライバーはエコドライブもうまい。それは加速するときに無駄にアクセルペダルを踏まないことが大きな原因だ。ごく普通のドライバーは、ググッとアクセルペダルを踏んで加速し、前のクルマに追いついてスピードが出すぎると、パッとアクセルペダルを緩め、遅くなるとまたアクセルペダルを踏むといったような、いってみれば乱暴なアクセルペダルの操作をする。これでは何度も加速をしていることになるので、燃費が悪くなる。
一方、レーシングドライバーは、アクセルペダルの操作を少しでも誤るとタイヤがいきなり滑りだしスピンするので、慎重にペダルを操作する訓練ができている。それで1回のアクセルペダルの操作で必要なスピードまで加速でき、結果として燃費が良くなる。
では、モード燃費の測定ではどうだろうか。担当のベテランドライバーは測定器の上で、測定モードにぴたりと沿って加速する。決して無駄な加速はしない。アクセルペダルの操作に無駄はない。こんな運転は、とても一般の自動車ユーザーにはできない。
このような運転技量の差に加えて、実際の道路での加速は、測定モードの加速よりもずっと激しいという違いがあり、カタログ燃費と実燃費の違いが生まれる。平均的なドライバーが技量に合ったアクセルペダルの操作で、実際の道路の加速の仕方で加速するような走行モードに変えなければ、カタログ燃費と実燃費の溝はいつまでも埋まらないだろう。