ウィーは事業を急拡大させ、一時は企業価値が470億ドル(約5兆円)と推定され、19年4月、IPO(新規株式公開)に向けた手続きを開始したと発表した。だが、ここから事態は暗転。ニューマン氏が低利で会社から多額の資金を借り入れたり、自身が所有するビルを同社に貸したりするさまざまな「利益相反」が報道で明らかになった。おまけに本人の薬物使用疑惑が飛び出すなど個人的なスキャンダルも噴出した。多額の資金調達に成功したことが、かえってウィーの経営体質を弱体化させるという皮肉な結果となった。
18年12月期の業績は売上高が前期比2倍の18億ドル(約1900億円)になった一方、純損失も同2倍の16億ドル(約1700億円)となり、年間売上高と同規模にまで赤字が膨らんだ。「事業の赤字を資金調達で埋める」という状態の自転車操業が続き、ビジネスモデルにも疑問符がついた。市場の期待は一気に失望に変わった。
こうした状況に焦ったのがSBGだ。ウィーの上場で巨額利益を得るもくろみが見事に外れた。それどころか、逆に経営再建のための追加支援に追い込まれた。SBGはウィーの創業者であるニューマンCEO(最高経営責任者)の解任に動く。9月、ニューマン氏はCEOを辞任し、IPOを撤回した。
SBGはウィーの再建にマルセロ・クラウレ氏を会長に送り込んだ。南米ボリビアの出身で、同国サッカー協会幹部を務めるなど異色の経歴だ。3人いるSBG副社長の1人でCOO(最高執行責任者)を務め、かねて孫会長の後継者の1人と目されていた。孫会長が「ストリートファイター」と呼ぶクラウレ氏にウィーの再建を託す。
日本経済新聞(10月24日付夕刊)は<ウィーの全従業員の3割、4000人規模の人員削減>と伝えた。ウィー社が米証券取引委員会(SEC)に提出した資料によると、同社の従業員数は6月末時点で1万2500人超。4000人は全従業員数の32%にあたる。
孫氏の焦り
SBGは世界の名だたるユニコーン企業に巨額出資し、7月には10兆円ファンド第2弾の設立が決まった。SBGの大口投資先で企業価値を大きく下げたのはウィーだけではない。配車サービスの米ウーバー・テクノロジーズの株価は5月のIPO時点から3分の1に暴落した。
<孫会長は(10月)21日、2017年に210億ドル強(約2兆3000億円)のバリュエーション(株価評価)でウィーワークに出資したビジョン・ファンド1号の投資家に電話会議で陳謝した>(10月22日付米ブルームバーグより)