1枚千円のとんかつがバカ売れ!平田牧場の闘魂経営…豚2頭から三元豚の王者への軌跡
「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数あるジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。
「11月14日、東京都内で3店舗目となる物販店を玉川高島屋に出店しました。1枚1000円のとんかつを5枚買われる方もいるほど、おかげさまで好評です。常連のお客様からは『六本木ミッドタウンまで行かないと買えなかったのに、ここで買えるようになった』とも言われました」
平田牧場の新田嘉七社長は、笑顔でこう話した。山形県酒田市に本社を置く同社は、「平牧金華豚」や「平牧三元豚」といったブランド豚肉を生産している。東京都内では東京駅前の商業施設KITTEや六本木ミッドタウンなどに直営飲食店を出しており、玉川高島屋にも「とんかつと豚肉料理 平田牧場」という店がある。11月に出店したのはこれに次ぐ物販店で、とんかつや総菜、ソーセージなどを販売している。
昨今、食肉の不祥事や食品偽装といった事件が時々報道されるが、同社は無添加と風味の両立を追求して人気商品に育て上げた。今回は、同社の「骨太の取り組み」を紹介してみたい。
2頭の豚からスタート、苦難の末に20万頭超に育て上げた
平田牧場を創業したのは、新田社長の父で現会長の新田嘉一氏だ。かつて『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)にも出演した嘉一氏は、「良い豚肉の条件は、品種と飼料と育成環境が大切」と語る。米作農家の長男として育ち、地元の庄内農業高校を卒業後に農業に従事、その傍らメスの子豚を2頭飼い始め、3年後には20頭を超えた。その後、30歳で米づくりを放棄して養豚業に特化した。
だが、当時の養豚業は厳しいものだった。肥育した豚の納入価格が安定せず、「ピッグサイクル」と呼ばれる3年ほどの周期で暴騰・暴落が繰り返される価格変動に悩まされた。せっかく育てた豚も低価格で買い叩かれ、時には値がつかないこともあったという。