リスク分散ができていない
経済ジャーナリストの森岡英樹氏は今回の決算を次のように解説する。
「一言でいうと、SVFの見通しが甘かったということです。SVFはウィーワークに対して、計9回に及ぶ追加出資をしました。同社の共同創業者アダム・ニューマン氏が個人的に孫氏に対して無心を続けた結果、1兆円を引き出したといいます。
これはファンドの投資額の全体の10%にあたります。通常のファンドであれば、ここまで1社のウェートが高くなることはありません。まったくリスク分散がなされていなかったことが、今回の赤字の最大の要因です。米国の友人に聞いたところ、『SVFが手あたり次第にシリコンバレーのAI・IT関連ベンチャー企業を持って行っている』と困っていました。中身をあまり精査せずに、拙速な出資を行ったのではないかと推測されます」
同様に国内の有力ファンドマネジャーもSVFの投資の仕方に疑問を呈する。
「SVFのような比較的テーマ色の強いファンドは、特定の業種が崩れた時に大きく崩れます。もう少し、安定的な業種を入れたほうがよかったのかもしれません。米中貿易摩擦やブレクジット(英国の欧州離脱)など、世界経済の不安定要因が増しており、ファンドの対応力が問われています。
高リスク、高リターンのファンドでは、ある程度攻撃的な組成にしないといけないのかもしれませんが、リーマンショック級のアクシデントが生じた際、ウィーワークに経済的な負の影響に対する対応力があるかどうかは疑問です。自己資本比率や財務力、経営者や役員への聞き取りはもちろん、社員の就業環境や士気なども含めて綿密な調査が必要でしょう。
そう考えると、2年間で88社は異様な増加スピードです。いったいどんな調査をしていたのか疑問です。しかも、ウィーワークなど特定の企業に肩入れしすぎているのはかなり危険です。新しい投資先にシフトしつつ、全体投資額におけるウィーワークなどの組成割合を調整できるかが正念場でしょうね」
真っ赤っかな赤字がさらに深紅に染まるのか。それとも、V字回復に転じるのか。今後の孫正義社長の巧みなかじ取りが見ものだ。
(文=編集部)