日本でも電力会社の発送電分離が進み各電力会社のエリアを超えた事業の広域化や、自然エネルギーへの参入など電力自由化が進んでいる。こうした流れを世界規模に広げたものがGEIだ。電力の安い国から高い国に販売することで、アジア圏内での小売り価格の差を縮小するのが狙いだ。現在、日本の電力小売価格(火力発電ベース)は中国、ロシア、韓国などの自然エネルギー電力と比べて2~4倍になっている。計画はまだ構想の段階だが、仮に格安な中国やロシア産の電力が流入すれば、相当規模の国内シェアを占める可能性がある。
消費者や各国企業にとっては大きなコスト削減にもなるし、「脱炭素社会の実現」という世界的な課題の解決策にもなる。確かに欧州などでは、国際送電網が普及している。しかし、アジアでは少々事情が異なる。少なくとも日本は韓、中、露すべての2国間関係でなんらかの火種を抱えているからだ。
エネルギー安全保障に懸念
電気事業連合会関係者は次のように話す。
「自然エネルギーの国際融通に関しては、日本国内の電力各社や他の多くの事業者にとっても刺激になり、市場は活性化するでしょう。
ただ、エネルギー安全保障の観点を考えないわけにはいきません。オイルショックの教訓から、東京電力福島第1原発事故以前まで国策として実施してきた核燃料サイクル事業を核にしたエネルギー自給構想は事実上とん挫しています。風力や太陽光など自然エネルギーの割合は増えているものの、結局、火力発電が中心の状況に変わりはありません。
そのため従前どおり、中東方面から天然ガスや石油をタンカーで輸入せざるを得ません。このシーレーンは、他の先進国では類を見ないほど長大な“生命線”です。日本は戦後、地政学的にも安全保障上の観点からも、シーレーンの防衛のために外交的な努力を積み重ね、自衛隊を増強してきました。
確かに電力を近隣諸国で相互融通し、今より一層自然エネルギーの進展が進めば、シーレーン防衛の負担も、火力発電の割合も減少するかもしれません。一方で米中貿易紛争、日韓関係の悪化、そして南シナ海をめぐる周辺諸国の対立を見る限り、どうしても中国主導の電力網構想には不安が残ります。今回のフィリピンの報告書は他人事には思えません」
消費者が、より便利により安くサービスを手に入れることができるようになるのはよいが、電事連の指摘も気にかかる。
(文=編集部)