ビッグバンにより宇宙が誕生し、粒子にヒッグス粒子が結合することで質量が誕生し、原子核、原子が生まれていきました。同様に、ミニサイズのポップコーンを全種類取り揃えることでコンプリートアソートが誕生し、数量限定にすることで希少価値が誕生し、希少価値により行列が誕生し、行列と行列が結合して1時間30分待ちとなったのです。ギャレットポップコーンショップスにおけるコンプリートアソートは、行列を生んだビッグバンであるともいえます。
価格設定もかなり卓越しています。例えば、コンプリートアソートは3200円、一番高い商品は2ガロン缶で8250円にもなりますが、紙袋入りの商品はSサイズで310~580円です。
メニュー表に踊る3200~8250円の価格を見た後では、310~580円はかなり安いと感じさせられます。普段310円のポップコーンを買わない人にも、「310円なら買ってもいいかな」と思わせることができるのです。
こうした手法を「アンカリング」といいます。提示された特定の数値や情報が印象に残って、それが基準(アンカー)となって判断に影響を及ぼすのです。今回の場合、3200~8250円という高価格帯がアンカーとなり、310~580円の価格帯を安く感じさせるという影響を与えており、アンカリングの手法を取り入れているといえます。
また、個別の商品においてもアンカリングの手法を取り入れています。例えば、筆者が購入した「シカゴミックス」は、キャラメルクリスプとチーズコーンの味が楽しめる商品ですが、Lサイズは1020円、Mサイズは680円、Sサイズは430円で販売しています。量が多いとはいえ、ポップコーンで1020円はとてつもなく高額です。しかし、それと比べて680円や430円は安く感じます。
筆者はSサイズを購入しましたが、アンカリングにハマったといえます。よく考えてみると、60グラムのポップコーンで430円は極めて高価です。
60年間守られてきた秘伝のレシピのポップコーンとはいえ、冷静になってみると高いと思います。しかし、現場では「安い」と感じてしまいました。アンカリングにより、一般的なポップコーンの価格との比較ではなく、同店の価格帯の中での比較に持ち込み430円を安く感じさせているのです。
ギャレットポップコーンショップスは、卓越したマーケティング戦略によって行列をつくりだし、集客と売り上げ拡大を実現しているお店だといえそうです。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)
●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。