推測ですが、この店舗の独自判断で行っていたのでしょう。「お客様にも啓くんの素晴らしさを伝えたい」と店長が判断したのではないでしょうか。本部の許可があるか否かはわかりませんが、その店舗独自の施策であることは間違いありません。つまりスターバックスは、その店舗に「権限を委譲」しているといえます。
マクドナルドをフランチャイズ展開し、世界最大のファストフードチェーンに仕立て上げたレイ・クロック氏は、自身の著書『成功はゴミ箱の中に』で次のように述べています。
「職権というのは、一番下のレベルにいる人の手にあるべきだと常に考えていた。店に一番近い立場にいる人間が、本部に指示を仰がずとも決断できるべきだと」
「確かに間違った決断も犯してしまうだろうが、それが人々を企業とともに成長させる唯一の方法なのだ。抑え付けようとすれば、息が詰まってしまい、良い人材はよそへ流れていくだろう」
このようにクロック氏は、部下に権限を委譲することの重要性を説いています。先のスターバックスの店舗は、まさに現場に権限が委譲されている良い例だと思います。権限が委譲されているから良い人材がスターバックスにとどまり、そして褒められることでモチベーションが上がったスタッフが接客するのですから、顧客がほかの競合店に流れる心配はほとんどありません。スターバックスの強さは、部下を褒める文化と、部下に権限を委譲する体制にあるといっても過言ではありません。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)
●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。