ブリヂストンが利益の柱である米国事業強化策の練り直しを迫られることになった。米国事業を強化するための重要な施策だった米国タイヤ販売大手ペップ・ボーイズの買収に失敗したためだ。
ブリヂストンがペップの買収で最終合意したのは2015年10月26日。ペップは自動車アフターマーケット大手で、全米35州とプエルトリコに800店舗以上の販売ネットワークを展開している。「ファイアストン・コンプリート・オートケア」などのブランドで、全米に販売代理店を含めると5000店舗以上のタイヤ小売店を展開しているブリヂストンは、ペップの株式を1株当たり15ドルで公開買い付け、16年初に総額8億3500万ドル(約1002億円)で買収することで合意。ペップ買収によって、ブリヂストンの全米でのタイヤ小売直営店数は2200店舗から一気に約35%拡大する計画だった。
ブリヂストンがペップの買収を決めたのは、タイヤ販売と利益の柱である米国事業を強化するためだ。仏ミシュランとタイヤ業界トップの座をかけて覇権を争うブリヂストンは、経営の最終目標として「業界において全てに『断トツ』」を掲げており、米国事業を強化することはミシュランを引き離すためにも最重要課題となっている。
米国タイヤ市場シェアは、小売店の意向が大きく左右する。特にペップのような大手チェーンは価格交渉やシェアの面で強い影響力を保持しており、その意向がブリヂストンの業績やシェアの動向にも直結しかねないほどだ。
昨年、ブリヂストン、ミシュランに続くタイヤ世界3位の米国グッドイヤーと同6位の住友ゴム工業が、提携を解消した。これを機に、グッドイヤー、住友ゴムそれぞれが米国でのタイヤ事業を強化するなど、今後販売競争が激化する見通し。ブリヂストンとしては、ペップ買収により米国市場で影響力を持つことがシェアアップと収益確保には重要で、ミシュランと差別化をするためにも必要な戦略だった。
買収断念
そのブリヂストンの戦略に立ちふさがったのが、著名投資家カール・アイカーン氏だ。昨年12月、アイカーン氏はペップ株式の12.12%を保有していると報告するとともに、ペップ株式をブリヂストンを0.50ドル上回る15.50ドルで買い付けると公表した。
これを受けてブリヂストン側も昨年12月11日、株式買い付け価格を15.50ドルに引き上げると発表。さらにアイカーン氏が12月21日に16.50ドルに引き上げると、ブリヂストン側もこれに対抗、12月24日には17.0ドルへ引き上げると公表し、買収合戦の様相を呈してきた。