「以前幹部社員を転勤させようとしたら、『介護している自分の老親が同居していて、妻から自分だけとなる介護について強い難色を示された』と言われた。また知人の経営者が、地方に住む母親が亡くなり父親が独居老人となったので、いわゆる『遠距離見守り』を始めたが堪えられず、来年引退を決めた。この社長は従業員社長で、親会社はこれを機会にその会社を閉鎖することにした」
「遠距離見守り」とは、月に数回訪問してケアすることだ。このほかにも、老親介護のために幹部職から残業のない一般職への降格を願い出た事例なども知っている。
自分で介護させない、介護をマネジメントさせる
佐藤教授は言う。
「社員が自分で介護したのでしょう? それでは駄目です。現在一介護案件について、一度限りですが連続で最大93日の介護休暇を与える法制になっています。しかし、自分だけで介護しようとする限り、この93日間を過ぎてしまったらどうするのですか。この期間に、自分で介護しなくて済むために動くことを、その社員に啓蒙するのが会社側に期待されることなのです」
佐藤教授が出席者たちに、現行の介護保険の制度をどれだけ知っているかと尋ねると、多くの者がしっかり認識していないことがわかった。「ご自身は介護保険に加入していますか?」という質問に、多くの参加者がとまどった。答は「40歳から全員加入する」だが、私も含めて、まさに介護をする側となる「介護世代」の人たちである。なかには、会社で人事部門に属する人が自社の介護支援制度をしっかり理解していない、という状況も明らかとなった。
「社員の介護問題について、企業自身が何か介護したり手助けしたりということではありません」(佐藤教授)
40歳以上の社員に対してセミナーを開いたり、情報を記載したリーフレットを配ることにより情報提供をするのが有効だという。情報とは、介護保険でどのような補助を受けられるのかや、ケア・マネジャーの使い方などについての知識だ。そして、「介護は誰にでもやってくる問題」だと社員に認識させて、それにそなえさせることだという。これらにより、介護休業や介護離職の割合を低くすることが期待できるという。
費用は親が拠出、会社は社員へ豊富な情報提供を
「介護制度を利用する費用? それは親に出させなさい。老親は年金をもらっているのでしょう? それを拠出させなさい。不動産があれば金融資産に変換したりもするのです。最悪なのは、地方に住んでいる老親を呼び寄せてしまうこと。こうすると自分と自分の家族の介護負担も大幅に上がってしまう。あくまで諸制度を知り、最大に活用することで対処することが重要です」(佐藤教授)