ところがその場で辞任を受け入れたとされる佃社長は、その後辞任せず、韓国を担当していた弟の昭夫氏が7月13日、ロッテHDの代表取締役に就任した。
「会長は92歳(当時)とかなりの高齢で、11年頃から韓国の執務室に常駐していたのですが、『事実を説明するためなら日本にでもどこにでも行く。取締役たちにもいくらでも事実を説明する』と言ってくれました。そして会長自ら7月27日に本社へ赴いたのです」(同)
このとき、武雄氏と現経営陣との話し合いが成立せず、7月28日には逆に、武雄氏の判断力と記憶力が低下しているとして、昭夫氏ら現経営陣によってロッテHDの代表権を解かれ、名誉会長に棚上げされてしまったという。
反撃
その後、武雄氏と宏之氏が反撃に出る。日韓両国で昭夫氏側陣営を次々に提訴した。そうしたなかで、武雄氏は「週刊文春」(文藝春秋)に手記を寄稿し思いの丈を綴り注目を集めたが、これまで武雄氏が表に出てくることはなく、「あれは誰かが手を加えているのではないか」といった声も一部でささやかれていた。
昨年12月には、武雄氏兄弟の4番目の妹である辛ジョンスクからソウル家庭裁判所に対して、武雄氏に認知症の疑いがあるとして、後見人を指定する成年後見人制度の申請がなされた。
宏之氏側は武雄氏の健在ぶりをアピールする一方、昭夫氏側は武雄氏の健康異常説を唱え、実妹は武雄氏を成年後見人制度の庇護の下に置こうとする展開を見せている。こうした骨肉の争いは、日韓両国をまたいで引き続き収束する気配を見せない。武雄氏はこの裁判でも今年2月3日に出廷して「私の判断能力は50代の時と変わらない」と主張し、証言したという。
騒動のキーパーソンである武雄氏の動向が注目を集めるなか、今回本人が自ら映像で自分の思いを伝えることにより、日本にいる社員や関係者にも健在ぶりを証明する。
(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)