ただ、なんでもかんでもオープンというよりも、関係者の安心と利便性を維持するために最低限の参加障壁をつくり一部クローズにする「オープン・クローズ」が最近の動きである。インターネット勃興期のようになんでも「フラット」「フリー」「オープン」を標榜するアナーキーなイデオロギーに固執しない。
大型コンピューターの時代には、IBMがハードウェアもソフトウェアもすべて自ら供給していた。これは、クローズ戦略だ。パソコンのアプリケーションは、マイクロソフトのOS上で動くアプリケーションを誰も規制しないオープン戦略であった。一方で、アップルのiPhoneのアプリケーションは、誰でも供給できるが同社の認証をとらないと配布できない。これは、オープン・クローズ戦略だ。
ほかにも、オープン・クローズ的発想のものとして、「お友達」承認した者同士のコミュニケーションを図るSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)。基本機能は無料で楽しめるけれども、付加価値の高いサービスは有料になるビジネス。コアの技術は独自に管理しながら、それを利用する技術を敷居の低いコンソーシアムで普及しようとするものなどがある。
このように、最近の新規事業は、ネット勃興期の「フリー、フラット、オープン」信仰から次のステップに移っている。
20→21世紀のビジネスに転換
以上のようなリーン・スタートアップ、デザイン思考、オープン・イノベーションは、どれも万能兵器でもないし、まったく新しい手法でもない。
たとえば、リーンなどは、江戸時代の商人が「やってみなはれ」とすでにやっていたことだろう。また、エレベーターの待ち時間を感じさせないために鏡を置く話などは、40年以上前に『頭の体操』という本に紹介されていたと記憶している。
こうした昔からある発想が、今にわかに注目を浴びているのは、時代のほうがこの手法に適合してきて、改めて効果が浮き彫りになってきたからにほかならない。つまり20世紀のビジネスでは、故障しない自動車、カラーのテレビ、スピードの速い鉄道と、目標は容易に間違いなく明確に設定できる。そこで、その目標をより早く、より安く実現するための競争を必死に行う目標遂行競争であり、知の深化の競争でもあった。