親介護による職場離脱、企業の存続を脅かし始める…職場混乱、退職・採用で甚大なコスト
こうした感情のすれ違いから、本人が孤立に陥り、職場のモチベーション低下を招き、やがては生産性の低下にも通じるといった“負の空気感染”を巻き起こす。
介護問題を抱える従業員がキーマンだった場合、社内だけの問題で終わらないケースもある。実際、クレームやトラブルの発生にも迅速に対応できなかったことが続いたとして、部下の信頼を失い、組織としての求心力も弱まり、ついには異動を命じられた実例もあるほどだ。
問題で業務に支障をきたしてしまうことが起こったなら、企業としての業務バランスが大きく崩れることは、頭の片隅に置いておきたいものだ。
採用コスト問題
業務以外にも、雇用や育成にも影響を及ぼすことに注意が必要だ。中小企業の従業員が抜けた穴の大きさは、大企業のそれとは格段に違うことを知っておく必要がある。大企業であっても、育成に時間のかかる技術職や特殊な業務に就いている人の穴埋めは、簡単にはいかないことは容易に想像ができるだろう。
採用コストの問題も深刻だ。介護離職のたびに退職と採用コストが発生する。良い人材を確保するために採用コストは無視できないが、広告費が今後上昇するとの見方もあるなか、介護離職に伴う採用コスト問題は、大きな課題になるに違いない。
そして、企業にとって介護ビッグバンの最大の課題は、抜本的な体制整備が構築できていなければ、今後高齢化が進む日本において、退職・採用を繰り返してしまうことに尽きる。
企業にとっての介護リスクが声高に検証されていないこともあって、「そのうちに考えるつもり」と明かす経営者や人事関係者も少なくない。
だが、従業員の介護対策が後手後手になったばかりに、本来なら失わなくてもいい人材を失うだけでなく、ひいては技術継承や企業文化の喪失につながることも考えられる、逆にいえば、介護に優しい企業は、企業としての新たな付加価値につながるように思えてならない。どうやら、企業にとっての介護対策は、企業の新たな生命線ともいえそうだ。
(文=鬼塚眞子/一般社団法人介護相続コンシェルジュ代表、保険・介護・医療ジャーナリスト)