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アサヒ、キリンに首位奪還される目前で販売数量公表を廃止…「本麒麟」人気の勢い止まらず

文=編集部
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アサヒ スーパードライ(サイト「Amazon」より)

 アサヒビールは2020年からビール系の販売実績について、販売数量ではなく、販売金額の公表に切り替えた。アサヒを除く3社(キリンビール、サントリービール、サッポロビール)は従来通り販売数量を公表し、販売金額は開示しない。このため、1月からシェアが算出できなくなった。アサヒの塩澤賢一社長は、販売量の追求から脱却して利益重視に転換したいためと説明。消耗戦覚悟のシェア争いを続けていては業界が衰退してしまうとした。

 これにより、どのビール会社も「ビール日本一」を名乗れなくなる。1992年から業界団体「ビール酒造組合」がシェア算出根拠となる大手5社(沖縄のオリオンビールを含む)の課税出荷量を公表してきた。ところが、2018年分を最後に公表を取りやめた。背景には激しいシェア争いがある。

 キリンはPB(プライベートブランド)商品分を含めたシェア算出を継続するよう主張した。キリンは18年4月から大手スーパー「イオン」やコンビニエンスストアのビール類の受託生産を始め、シェアを伸ばした。キリンはPBの受託生産分を18年度上半期(1~6月)に算入した。この結果、キリンのシェアは急伸。新製品「本麒麟」のヒットも加わり、前年同期よりシェアは2.3ポイント高くなり34.0%となった。17年通年で7.3ポイント開いていたアサヒとの差は3.3ポイントと、急速に縮まった。

 アサヒとサントリーは「他社によって販売される分を自社のシェアに含めるのはおかしい」と主張した。熾烈な首位争いを繰り広げてきたアサヒはPBには注力しておらず、危機感が強い。結局、調整がつかず、19年からは発表そのものが中止となった。

 課税出荷量に基づくシェア算出もできなくなった。日本経済新聞によると、19年上半期(1~6月)のアサヒのシェアは36.7%で、キリンは35.2%。前年同期の両社の差は3.3ポイントだったが、1.5ポイントの僅差になった。

 販売実績はそれぞれの会社の自主申告であるため、第三者には検証しにくい。酒税が課された本数を示す課税出荷量のほうが、はるかに信頼性は高い。1992年に課税出荷量が公表される以前のシェアの算出方法は、現在ほど信頼性はなかったとされる。それでも、各社が公表する販売数量がシェア算出の唯一の拠りどころだった。最大手のアサヒが販売数量の公表を取りやめるため、シェア算出ができなくなった。アサヒはキリンに逆転される可能性があった。「その屈辱を避けるために、販売数量の公表を取りやめることにしたのではないのか」(食品担当アナリスト)との見方が出ている。

19年の販売数量はキリンがプラス、アサヒはマイナスと明暗

 ビール国内大手4社は2020年の事業方針を発表した。19年の国内ビール類(ビール、発泡酒、第3のビール)市場は数量ベースで前年割れとなった。市場の縮小は15年連続である。

【4社のビール類の2019年間販売数量】(1ケースは大瓶20本換算)

アサヒビール   1億4196万ケース  前年比3.5%減

キリンビール   1億3550万ケース  同0.3%増

サントリービール   6365万ケース  同1.0%増

サッポロビール    4347万ケース  同2.6%減

本麒麟」が大幅に伸長したキリンは2年連続のプラス。サントリーは「金麦<ゴールドラガー>」をはじめとする金麦ブランドが2ケタ増となった。一方、アサヒの「クリアアサヒ」は前年比14%減と大きく落ち込んだ。第3のビールの好不調が明暗を分けた。販売量を基にしたシェアは首位のアサヒの36.4%に対して、キリンは35.2%と1.2ポイント差となった。キリンが首位奪還に王手をかけたということだ。

キリンは「本麒麟」、アサヒは「スーパードライ」で勝負する

 20年10月には酒税改正が行われる。350ミリリットル缶1本当たりでビールは77円から70円へと減税になる。一方、第3のビールは28円から37.8円へ増税される。2026年に発泡酒を含め、ビール類酒税を54.25円に一本化するための前段階的な措置だ。第1弾の改正はビールに追い風。価格優位性で人気となっていた第3のビールには向かい風となる。

 酒税改正を控え、アサヒとキリンは対照的な販売戦略を打ち出した。キリンは税額が上がる第3のビール「本麒麟」に力を入れる。18年3月に発売した本麒麟はビールに近い味わいが売りで、19年の販売量は1510万ケースと前年比で61%も増えた。

 好調の今こそ、ライバルとの差を広げる好機とみて、「本麒麟」を今年1月中旬製造品より順次大幅に刷新。大麦の配合量を増やし、よりビールに近い味わいにする。本麒麟の20年の販売量は1900万ケースを計画、前年比26%増と強気の目標を打ち出した。本麒麟を第3のビールというカテゴリーの中で、確固たるブランドにする方針だ。

 アサヒは税額が下がるビールの主力商品「スーパードライ」の復活を目指す。1987年に発売したスーパードライは、“夕日ビール”と揶揄されていたアサヒを復活させた。2001年、ビール類(当時はビールと発泡酒)のシェアでアサヒが37.4%、キリンは37.3%。長らく業界に君臨していたキリンを、アサヒが追い抜いた。奇跡の大逆転であった。アサヒを業界トップに押し上げた主役はスーパードライ。ビール単体のシェアはアサヒが48.3%。アサヒの圧勝だった。

 しかし、近年、ビールは第3のビールにシェアを奪われた。19年のスーパードライの販売量は8644万ケースと前年比5%減少。7年連続のマイナスを記録した。アサヒがスーパードライにこだわるのは、ビール類販売量の6割をスーパードライが占めているからだ。酒税改正を追い風に原点に立ち返り、スーパードライで勝負を賭ける。しかし、増税により第3のビールの愛飲者はより安い、缶入りチューハイやハイボールに流れるとの予測がある。アサヒは2020年のビール類の販売目標を金額で開示した。販売金額は6660億円で19年比横ばいである。

(文=編集部)

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