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小林敬幸「ビジネスのホント」

鴻海によるシャープ買収、交渉で「間違った」のは誰か?

文=小林敬幸/『ビジネスの先が読めない時代に 自分の頭で判断する技術』著者
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鴻海によるシャープ買収、交渉で「間違った」のは誰か?の画像1シャープの本社(「Wikipedia」より/Otsu4)

 4月2日、鴻海によるシャープの買収契約が締結された。総額3888億円という鴻海の出資金額が注目を集めたが、総投資額の大きさだけをみても意味がない。ここでは、「誰の財布の話なのか」、誰を向いて交渉をするべきかという「客を間違えるな」というビジネスの基本に関する点が重要となってくる。

 総投資額の大きさだけをみても意味がない理由は、たとえば新親会社にとって100%買収した会社に何千億円追加で投資しようとも、それは自社の財布のなかでお金が移動したにすぎず、痛くも痒くもないからだ。たとえば、一般論として次のような場合を想定してみよう。

・ケースA:H社がS社を1000億円で100%買収した後、3000億円追加投資した場合
・ケースB:H社がS社を3000億円で100%買収した後、1000億円追加投資した場合

鴻海によるシャープ買収、交渉で「間違った」のは誰か?の画像2『ビジネスの先が読めない時代に 自分の頭で判断する技術』(小林敬幸/KADOKAWA/角川書店

 両ケースとも、総投資額は4000億円だが、まったく意味が違う。ここでの「追加投資分」は、実はH社の財布のなかで移動したにすぎない。

 ケースAの場合、H社がS社の株式の100%を持っているなら、S社にある追加投資分の3000億円の設備とお金は、100%H社のものという意味だ。ケースAの場合、S社に残っているのは1000億円だけだ。

 一方で、「100%買収に使った投資額」は、S社にはいかずS社の旧株主にいくことになる。それは即ち会社の値段であり、ケースAでは1000億円、ケースBでは3000億円とみていることになる。S社の旧株主は、それぞれこの額を受け取ることになる。つまり、旧株主はケースAの場合、ケースBの3分の1の値段で自分の持っている株をH社に売ってしまうことになる。

S社社員は新株主H社と利害が一致

 ここで、それぞれの関係者にとっての損得をみてみよう。

 H社にとっては、ケースAのほうがいい。追加投資額は自分の財布のなかだから関係ないとすれば、買収に要する投資額が少ないほうがいい。S社の旧株主にとっては、ケースBのほうがいい。自分の持っている株がケースAの3倍で売れるからだ。

 S社社員にとっては、実はケースAのほうがいい。より多くの追加投資を受けられて、会社が成長したり安定したりするのは、残ってがんばろうとしている社員にとっては、ありがたい。

 ここで、興味深いのは、S社社員は新株主H社と利害が一致しており、S社旧株主と利害が反しているということだ。

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

1962年生まれ。1986年東京大学法学部卒業後、2016年までの30年間、三井物産株式会社に勤務。「お台場の観覧車」、ライフネット生命保険の起業、リクルート社との資本業務提携などを担当。著書に『ビジネスをつくる仕事』(講談社現代新書)、『自分の頭で判断する技術』(角川書店)など。現在、日系大手メーカーに勤務しIoT領域における新規事業を担当。

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