しかし、この説明を鵜呑みにはできない。浦和店はヨーカ堂の182店舗のなかで売上高ベースで80位前後の中規模店舗。商店街の一画にある4階建ての店舗に入ってみると、昭和40~50年代にタイムスリップしたような雰囲気にあふれており、ヨーカ堂の苦境を象徴するような店だ。衣料品を見ても若年層が好むとは思えない品揃えで、ここで若年層向けのアイドルグッズを捌ききろうとするのは無理があるのだ。
広報担当者の説明を関係者にぶつけてみると、次のような回答を得た。
「たしかに在庫の移動集約が行われることもあるが、浦和店への集約など聞いたことがない。浦和店が売れる店であると考えているのなら、その判断は狂っているとしか思えない。リパッケージのために返品したのなら、返品先はT社ではなく、各店から直接M社に返品するはず」(関係者)
4月7日にセブン&アイHDが発表した決算で、ヨーカ堂が初めての営業赤字に転落したことはすでに触れた。衣料品の在庫処分を断行したのが赤字の主因だが、説明資料には「単品管理と販促(販売促進)政策に課題残す」と書かれており、グッズに関わった販売促進部やその周辺で降格人事が相次いだこととも符合する。宣伝装飾費が36億円増加したことも記されており、これもアイドルグッズやスタンディポップと無関係ではないだろう。
しかし、これだけならヨーカ堂の社長と常務が同時に辞めるほどの理由にはならない。たとえば、オムニセブンで扱うのは約180万品目もあり、アイドルグッズはそのうちほんの数品目の問題である。前述のとおり、アイドルグッズによる損失額は2億数千万円でしかない。
幹部と取引先の癒着か
謎を解くカギは、前述した商品企画のA社がなぜヨーカ堂と取引できたのか――にありそうだ。A社は10年の創業で会社としての歴史は浅く、信用調査会社の評価はまだ高いとはいえない。一般に大企業が新規の取引先と取引を始める場合、与信管理の都合上、信用調査会社の評価が一定水準に達することを要件とするケースが少なくない。ヨーカ堂も同様で、A社は信用調査会社の評点が低く、ヨーカ堂で取引アカウントを開設できないはずなのだ。
にもかかわらずA社はヨーカ堂に食い込み、ヨーカ堂幹部も前述のアイドル関連グッズを強力にプッシュ。ヨーカ堂の購買担当者が仕入れを渋ると、A社社長は「(ヨーカ堂の幹部が)コミットしていますから」と言って、アイドルグッズをねじ込んだ。しかしせっかく仕入れたアイドルグッズは、何の変哲もないノートが一冊600円以上するなど割高で、大量の売れ残りが発生した。