画期的な「蚊取り」空気清浄機が爆売れ…殺虫成分の拡散なし、目の付け所がシャープ
殺虫成分を一切使用せず蚊を駆逐
それが、シャープが製品化した「蚊取空清(かとりくうせい)FU-GK50」だ。空気清浄機に蚊取り技術を搭載した新製品である。
蚊取り技術といえば、殺虫成分をいかに効果的に発散して蚊を殺すかというところにばかり意識が注がれてきたが、この技術はその常識を根底から覆した。殺虫成分を一切使用せず、蚊を駆逐するのである。
その技術とは、紫外線を好む蚊の習性を利用し、紫外線を発するUVライトを空気清浄機に取り付け、寄ってきた蚊を吸引し粘着紙に吸着させるというもの。殺虫成分を室内に拡散させるというこれまでの前提を覆し、室内の蚊をおびき寄せて一網打尽にしてしまうという発想だ。子供やペットがいる家庭における、殺虫成分の健康への影響を不安視する声にもぴたりと対応している。
また、蚊が好む黒を本体の色に採用したり、蚊が物陰に隠れることを好む習性を利用して複数の小窓を設置したりと、工夫も細かい。
日本での発売は2016年4月だが、先行してアジア諸国で発売を開始しており、当初の計画の2倍売れているそうだ。
常に突然現れるイノベーターたちとの競争
これこそ、今のイノベーション競争を象徴する出来事ではないだろうか。まったく予想もしていなかったところから、予想もしないイノベーションが生まれ、既存の競争構図を大きく塗り替えてしまう。
自動運転でトヨタ自動車にグーグルが戦いを挑むといった例が典型であるが、ソニーのウォークマンをPCメーカーのアップルが駆逐したり、Skypeが電話会社を脅かしたりといった例があとを絶たない。
モノづくり企業は、これまで競合だけを見ていればよかったが、今後はその戦い方は通用しない。常に突然現れるイノベーターたちにも目を光らせなければいけないという点で、ますます厳しい戦いを強いられることになるということを、改めて認識させられた出来事だ。
それにしても、鴻海による買収騒ぎの渦中において、シャープらしい意地を見せつけた製品ではないだろうか。“目の付け所のシャープさ”は衰えていないことを証明してくれた。長らくシャープ製品に親しんできた世のお父さん世代の一人として、かの企業の今後の健闘を期待してやまない。
(文=星野達也/ナインシグマ・ジャパン取締役 ヴァイスプレジデント)