新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、安倍晋三首相が全国の小・中学校、高校などに一斉休校を要請したのは2月27日のことだ。突然の休校要請に子どもや保護者、教育現場からは困惑の声が上がった。
そんな中、ワタミは日替わり夕食宅配を行う「ワタミの宅食」で3月9日から4月3日まで、小中高校生を対象に商品代相当無料(1食あたり税込200円の諸経費のみ)で弁当を提供する緊急支援策を実施している。この施策はSNSなどでも話題となり、実際に現場のスタッフには感謝の声が多く届いているという。
ワタミはなぜ、この臨時休校支援を素早く決断したのか。宅食事業の責任者である、ワタミ執行役員宅食事業本部長の曽我部恭弘氏に話を聞いた。
渡邉美樹会長がスピード決断
――今回の臨時休校支援を実施した背景について教えてください。
曽我部恭弘氏(以下、曽我部) 政府の一斉休校要請を受けて、弊社の創業者である渡邉美樹会長兼CEOが「日本全国で困る子育て家庭が出てくるだろう」「サポートできるのは、おそらくワタミしかない」と語りました。全国に宅食工場があり、栄養バランスを考えたお弁当をつくり、玄関までお届けができるシステムを持っているのはワタミしかないからです。
また、弊社の臨時休校支援を知った世田谷区が、家庭の事情で昼食を食べることができない小中学生に対してお弁当を配達する事業を緊急実施し、弊社が代行して世田谷区内で200食をお届けしています。
――どのような反響がありましたか。
曽我部 電話受け付けだったのですが、3月2日から4日午前中までに累計約450万件の問い合わせをいただき、感謝の言葉も多くいただきました。生産体制を上限まで引き上げ、提供期間の累計で約50万食で受け付けは終了しました。
まず、全国の約500の営業所に50万食が運ばれ、スタッフの手でそれぞれのご家庭にお届けしました。お子さまから直筆の感謝の手紙をいただき、スタッフのモチベーションがアップする出来事が多々ありました。いただいた感謝のメッセージは各営業所に貼られています。
――ワタミといえば居酒屋のイメージが強いですが、宅食事業に進出していかがですか。
曽我部 宅食事業は2008年から取り組んでおり、現在は全国で1日当たり約23万食を提供しています。外食事業と宅食事業が会社の大きな柱という位置づけです。高齢者向けのサービスとして利用されることが多いですが、今回の臨時休校支援がSNSなどで拡散されたこともあり、主婦の方々にも「栄養バランスの良い日替わりメニューのお弁当を届けてくれるサービスがあるのね」と広く認識していただくことができました。
強固な社会インフラとして機能
――宅食も社会インフラの一種といえそうですね。
曽我部 宅食事業のコンセプトは「(高齢者に)食と職を提供すること」です。「食」をご家庭に提供するだけでなく、新たに「職」を創造することを同時に展開します。
たとえば、各ご家庭の玄関までお届けするスタッフとは業務委託契約を結んでいるのですが、さまざまな世代の人材が活躍しています。定年退職後の男性や、小さなお子さんをお持ちの若いお母さんなどです。また、東日本大震災が発生したときは、世の中のインフラが止まっている中、すべての契約者のご家庭にお届けしました。昨年の大型台風襲来時も、千葉県木更津市以南の房総半島ではコンビニやスーパーで商品供給が途絶えましたが、我々のスタッフはすべてのお客様にお弁当をお届けしました。
そういう意味では、強固なインフラといえるでしょう。やはり、スタッフが自ら考え、使命感を持ちながら、お客様との関係性をつくり上げていることが、信頼につながっているのだと思います。
――宅食を通じた社会貢献の実現ですね。
曽我部 「地球上で一番たくさんの“ありがとう”を集める」ことがグループの理念です。ですから、社会貢献にも積極的ですし、環境やSDGs(持続可能な開発目標)の活動にも力を入れています。宅食事業でも、ビジネスと理念の両立に取り組んでいます。
「ワタミの宅食」では、業界で初めてバイオマスプラスチック容器の全国展開を実現しています。プラスチックに植物由来の原料を使用したバイオマスを含有させることで、石油の使用量を減少させ、CO2排出量も削減します。このバイオマスプラ容器を回収してリサイクルする取り組みを、中京圏、中国・四国地方で展開しています。2021年度末までに全国でリサイクルの取り組みを実施すべく、順次展開中です。
また、ワタミは199の自治体などと、見守りや公的配食サービスの協定を結んでいます。宅食事業のスタッフを地域の見守りに活用し、高齢者に不測の事態があれば、スタッフが自治体の担当者に連絡するという仕組みです。宅食事業のスタッフは毎日高齢者の方々と対面するので、何か異変があれば、すぐに察知することができるのです。
(構成=長井雄一朗/ライター)