クリスピードーナツ、なぜ客離れで閉店の嵐?甘すぎ&割高感が浸透した戦略の失敗?
有馬 アメリカ発のドーナツチェーン店、クリスピー・クリーム・ドーナツが10年前に東京・新宿サザンテラスに日本1号店をオープンした当初は、連日行列ができて話題になりました。その勢いのまま、以降は店舗数を増やして規模を拡大してきましたが、ここにきて閉店が相次ぐなど苦戦を強いられています。この原因をマーケティング的視点で見ると、買い手と売り手で商品に対する認識(ポジショニング)に差異があったと考えられます。
――規模の拡大がよくなかったのでしょうか。
有馬 そうですね。出店当時は、クリスピーの商品は「話題性のある流行スイーツ」というのが買い手の認識でした。ところが、同チェーンは全国的に規模を拡大することで「いつでも買える」という印象を植えつけようとしました。その結果、日本人にとっては甘すぎる味と他社よりも割高な価格帯がネックとなり、競合のミスタードーナツやセブン‐イレブンで売られているドーナツと比較のうえでの魅力を訴求できなくなってしまいました。さらに、「いつでも買える」ためにウリであったプレミア感も失いました。トライアルの消費が一巡した段階で売上げが頭打ちになった現象は、東京チカラめしの衰退に酷似していますね。
――このような本場の味を打ち出した製品に関しては、プレミア感を重視したほうが得策だったようですね。
有馬 現状を見ると、結果的にはそうだったのだと思います。コンビニなどで売られているハーゲンダッツのアイスクリームが長く愛されている前例もありますし、素材や売り方にとことんこだわっていれば、たとえもっと高くても、「自分へのご褒美」として定期的に買う層を取り込めた可能性はあります。ですが、それをせずに割高な価格帯のままアメリカナイズされた味で店舗を拡大し過ぎてしまいました。その結果、既存の消費者が抱いていたプレミアムなイメージを崩してしまったのではないでしょうか。
このようなイメージ戦略の失敗は、ユニクロが価格を値上げした結果、価格帯と既存のブランドイメージとの間にズレが生じた現象の逆のパターンだと解釈できます。消費者が抱く既存のイメージを変えていく場合には、多面的な分析をして相当慎重な決断が必要とされます。市場と競争をフレキシブルに捉えられないと、マーケティングは成功しません。時流を読み違えると、それだけで損失につながってしまうということを、企業は強く意識しないと戦っていけない時代だといえます。
――ありがとうございました。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=A4studio)