ミシンのブラザー、驚異的「ダーウィン進化論」経営!主力事業をコロコロ替え百年成長持続
「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数ある経済ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。
それまで手堅い経営で知られていたブラザー工業が、2015年に同社史上最高額となるM&A(企業の合併・買収)を行った。買収先は英国の印刷機大手であるドミノ・プリンティング・サイエンシズで、買収金額は当時のレートで約1900億円という巨大投資だった。それから1年が過ぎ、3月に同社は3カ年の新中期計画を発表した。一連の活動の狙いは何か。
今回は、小池利和社長に、
・大型買収に踏み切った理由
・新中期戦略の狙い
などについて、本音を聞いた。
収益を支えた看板事業に陰り
–ブラザーは株主に向けたメッセージでも、「事業環境や経営環境の変化」をうたっています。大型買収について聞く前に、自社を取り巻く経営環境の変化を具体的にお話しください。
小池利和氏(以下、小池) ブラザーの主力事業はオフィスや家庭向けプリンターで、15年度の実績では電子文具と合わせて連結売上高の約64%、営業利益に至っては利益全体の72%強を占めています。それがスマートフォン(スマホ)やタブレットの普及で、消費者は以前ほど紙を使って印刷しなくなりました。
そうなるとプリンターの売れゆきは鈍りますし、プリンターに使われるインクなどの消耗品も減らないので、消耗品ビジネスも鈍化していきます。まだ急速な落ち込みはなく、15年度は同事業の売り上げも微増ですが、早めに手を打たないと深刻な事態になるでしょう。
数年前まで一般消費者向けのプリンティング事業は、「先進国では横ばい、新興国で伸びていくビジネス」といわれましたが、状況が変わり、先進国では市場が縮み、新興国も思うように伸びなくなりました。その兆候は少し前からあり、これはマズイと思って細かい施策を打ってきました。たとえば、スマホと連動したスキャナーを手がけたり、米国の会社を買収してウェブ会議の事業も手がけています。しかし、4700億円を超える当社のプリンティング事業の規模からみれば、まだまだ規模は小さいです。
また、当社の利益を支えた工作機械の事業は、もともとミシンの部品の穴あけとして開発したタッピングマシンから拡大した事業です。最近までスマホのアルミ製ケースを削り出す工作機械が好調で、米国の大手メーカーが採用したのを皮切りに各社が追随して需要が一気に拡大しました。しかしスマホも浸透し、アルミへの切り替えによる需要は一段落したため、現在は自動車やオートバイの部品メーカー向けを強化しているところです。