JR九州の熊本地震による影響は全体で175億円。このうち鉄道事業が140億円を占める。鉄道関連設備の被害は1190カ所で、新幹線車両などの修復費が80億円、運転見合わせのなどによる鉄道運賃収入の減収分として60億円を見込む。
新幹線は本数を減らして全線開通したが、土砂災害に巻き込まれた在来線の豊肥線は、復旧のメドが立っていない。今後、鉄道事業の損失が膨らむこともあり得る。
4330億円の赤字から一転360億円の黒字へ
JR九州は16年3月期、上場に向けた会計処理を行った。民営化の時点で国から受け取った3877億円の経営安定基金を取り崩した。九州新幹線の設備を保有する鉄道建設・運輸施設整備支援機構からの貸し付け、2205億円を一括して返却したほか、800億円あった借入金の返済に充てた。
鉄道事業の赤字を補填してきた基金の運用益がなくなるため、鉄道事業は大幅な赤字に陥る。利益を生まない鉄道関連の資産価値は目減りするので、5268億円分の固定資産を減損処理して、12億円に圧縮した。
一連の処理によって、16年3月期に5462億円を特別損失として計上。連結の最終損益は4330億円の巨額赤字となった。
今期以降は、圧縮した資産価値で減価償却費を査定することから、コストが大幅に減り、17年3月期の鉄道事業を黒字に転換させるという、いわば数字のマジックが実現する。
17年3月期の売上高は前期比0.2%増の3788億円の見込み。営業利益は同2.5倍の518億円、熊本地震の影響を考慮し、最終損益は360億円の黒字となる見通しだ。
JR九州の青柳俊彦社長は「現在進めている上場へのスケジュールなどについて変更はない」と強気の発言をした。今秋に予定している上場は延期か、との観測を打ち消したわけだ。
4330億円の巨額赤字をどうやって解消するのか
4330億円の巨額赤字を抱えて、JR九州は上場会社として成長路線を歩むことができるのだろうか。16年3月期の会計処理は、鉄道事業が赤字にならないようにするためのもので、鉄道事業が黒字になっても稼ぎ頭になるわけでは決してない。
16年3月期の連結決算を振り返ってみよう。売上高にあたる営業収益が前期比5.8%増の3779億円、営業利益は63.5%増の208億円。このうち鉄道など運輸サービス事業の収入は3.7%増の1809億円だったが、同部門の営業損益は105億円の赤字だった。これまでは経営安定基金の運用益(16年3月期は111億円あった)で赤字を補填してきた。