そしてもうひとつ大きなインパクトを与えた施策となるのが、新料金プラン「カケホーダイ&パケあえる」の導入であろう。この料金プラン変更は、音声通話利用の減少を受け、音声通話で売上を高めてきた従来のプランから、音声通話は定額制にし、データ通信を従量制にすることでデータ通信利用の増加によって売上を高めるよう、収益構造を変える狙いがあった。
しかしながら導入当初は「通話し放題」に惹かれたユーザーの契約が殺到し、データ通信はもっとも安価な「データSパック」が契約の7割強を占めるなど、目論見が大きく外れたことから利益の大幅な下方修正を招いた。このことは、退任が決まった後も加藤氏が「心残り」と話すなど、同社にとって非常に厳しい結果を招いたといえるが、一方で新料金プランの導入積極化で収益構造をいち早く変えたことは、その後の業績改善にも大きく影響している。
ほかにも加藤氏の体制では、固定ブロードバンドサービスの「ドコモ光」の導入や、「dマーケット」をはじめとしたスマートライフ事業の拡大など、新しい取り組みを積極的に推進。その一方で、インド通信市場からの撤退や、大きな損失を出していたmmbiを解散・吸収し、スマートフォン向け放送サービス「NOTTV」を6月末で終了させるなど、山田氏の体制で進められた事業の“負の遺産”整理も進めてきた。
そうした取り組みがようやく功を奏し、15年度通期の決算でドコモは2011年ぶりの増収増益を達成。好業績で吉澤氏にバトンを渡すかたちとなったわけだ。
加藤体制を継続しつつ、スマートライフ領域重視へ
そうした加藤氏の体制を引き継いだ吉澤氏は、現状の方針を大きく変えるわけではない。基本的に加藤氏の体制の取り組みをベースとしながら、吉澤氏の色を出していく考えのようだ。
実際吉澤氏は、加藤体制で打ち出された、パートナー企業や自治体との協業によって新しい価値を生み出す「+d」に継続して取り組んでいくとしている。加えて、人工知能(AI)やクラウドなど新しい価値を取り込んで、サービスを創造進化させていく取り組み、そしてコスト削減や5Gに向けた研究開発、ユーザーへの付加価値サービス提供など、あらゆる基盤を強化することを吉澤氏は重視するとしているが、それらの多くは加藤体制から引き継がれたものだ。