テレビCM制作業界の勢力図が塗り替えられることになりそうだ。業界2位のAOIPro.と同3位のティー・ワイ・オー(TYO)が経営統合に向けて基本合意したからだ。2社は9月27日に開く臨時株主総会での決議を経て、2017年1月4日に共同持ち株会社を発足させる。この統合によって、東北新社を抜き、国内シェア首位のCM制作グループが誕生することになる。
両社統合の背景には何があるのか。ニュースリリースでは、次のように説明されている。
「近年、インターネットを中心としたデジタルメディア等の媒体の多様化や、スマートフォンやタブレット端末等に代表されるデバイスの多様化に加え、通信速度やデータ解析、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)等のテクノロジーの進化もあいまって、広告事業を取り巻く環境は大きく急激に変化している」
何より、地上波テレビCM制作費が、2015年に前年比98.8%(1兆9323億円/電通調べ)と減少に転じた。人口減や「テレビ離れ」で市場規模の先細りは明らかだ。リリースでは、「両社が現時点において主力としているTVCM制作マーケットについては、中長期的には大きな成長を見込む事は難しい」と指摘している。つまり、今後の成長に対する危機感――これが両社の決断を後押ししたのはいうまでもないだろう。
統合協議は今年2月ごろから具体的に動き出したという。AOIPro.の本社は品川区大崎1丁目にあり、グループ従業員数は約900人。主要取引先は博報堂、電通、アサツーディ・ケイの3社。連結売上高は320億円(16年3月期)で営業利益は25億円(同)。一方のTYOの本社は品川区上大崎2丁目で、グループ従業員数は約840人。主要取引先は AOIPro.と同じ3社。連結売上高は284億円(2015年7月期)で営業利益は18.8億円(同)。今年4月末時点の時価総額はAOIPro.が133億円、TYOが104億円。
「規模も同じような会社が『(仕事を)取った、取られた』の繰り返しで、『一緒になったらよいのではないか』という声は以前からありました」とTYOのIR担当者は話す。
AOIPro.はかつて、子会社でゴルフ雑誌「週刊パーゴルフ」事業を手がけていた。14年3月期は年商16億円を上げたものの営業損失約2.6億円と赤字で、その不採算事業を14年10月に譲渡した。これによって収益の重しを外すことができた。グループの採算も改善し、本業のCM制作に専念できる体制を整備したという経緯がある。これも両社を統合に結び付ける要因になったのは間違いないだろう。