富士通1000億円規模の赤字、9500人削減 ルネサスに逃げられ半導体事業統合どうなる?
(「富士通 HP」より)
富士通とパナソニック、それに半導体大手ルネサスエレクトロニクスは、システムLSIの事業統合を目指してきた。昨年12月、政府系ファンドの産業革新機構とトヨタ自動車などの企業連合がルネサスを買収することで合意した。その後、ルネサスが車載や産業機器向けのシステムLSI事業を社内に残す方針に切り替えたため、統合交渉は難航していた。
ルネサスは、システムLSIとマイコンを主力事業としている。自動車のエンジンや家電のモーターなどを制御し、製品の省エネ性能を左右するマイコンは世界シェア3割を占め、利益率は高い。赤字を垂れ流してきたのが、本来、看板商品であるはずのシステムLSIだった。
システムLSIは、演算処理やデータ保存などの複数の機能を1つのチップに搭載した半導体。スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)やデジタル家電、ゲーム機、自動車などに幅広く使われ、国内外のメーカーが小型化、低コスト化を競い合っている。
もともと、顧客企業の注文や製品の仕様に合わせる少量の特注品が多い。13年3月期(見込み)まで、前身企業を含めると8期連続の最終赤字。採算を度外視した特注品を受注してきたことが、ルネサスの赤字の最大の原因といわれている。
そこでルネサスは、マイコン専業メーカーに変身。不採算事業を切り離して、ルネサス、富士通、パナソニックでシステムLSIの事業を統合する計画が立てられた。ところがルネサスに出資して再建を主導したトヨタなどの意向で、車載や産業機器向けシステムLSIは残す方向に方針が変更になった。新会社へ移す製品をめぐって条件が折り合わず、ルネサスを除く2社が先行して事業を統合することになったわけだ。社内に残るとなれば、条件もへったくれもないわけで、交渉をここまでダラダラ引き延ばしてきた富士通、パナソニックの担当者のヤル気度が問われている。
富士通のリストラの柱は人員削減策だ。半導体事業の再編に関連して、早期退職などで海外2000人、国内3000人、合計5000人規模で削減する。半導体以外でも4500人を新会社の設立や事業譲渡に伴い転籍させることになっている。国内外で全従業員の5%に当たる9500人の人員削減を考えている。主力の三重工場は、台湾の半導体製造会社、TSMCなどと設立する新会社に移管することになる。はっきり言えば、設備に人員をつけて売るわけである。
富士通は13年3月期の連結業績予想を下方修正し、950億円の最終赤字になると発表した。半導体事業の構造改革に伴う費用(1420億円)など合計1700億円の特別損失を計上することで、巨額の赤字に転落する。従来予想は250億円の最終黒字だった。
13年3月期通期の売上高は、前年同期比2.2%減の4兆3700億円、営業利益は同5%減の1000億円の見通しだ。大規模な人員削減によって、営業損益段階で年間400億円を改善し、15年度に2000億円以上の営業利益を達成するとしている。
富士通は08年秋のリーマン・ショック以降、パソコンや携帯電話機器の市況が悪化。これに伴う半導体など電子部品の採算の低下に苦しめられてきた。日本の半導体産業はかつては世界を席巻し、80年代後半には日米摩擦を引き起こすほど有力な分野で、エレクトロニクス各社はこぞって自社開発・生産に取り組んできた。
そうこうする間に、専業化、工場を持たないファブレス化や汎用品(1つで複数の用途に対応できる製品)へのシフトが進み、韓国や台湾勢が台頭。この流れに乗り遅れた日本勢は軒並み敗者となった。00年前後から、日立製作所、NEC、三菱電機の3社は半導体部門を本社から切り離して生き残る方策を探ってきた。3社の事業統合で誕生したのが、DRAM(半導体メモリー)専業のエルピーダメモリとルネサスエレクトロニクスだった。
エルピーダは12年2月に会社更生法を申請。ルネサスも12年12月に産業革新機構の下で再建を目指すことになった。そしてルネサス、富士通、パナソニックのシステムLSI事業を切り出して統合する計画が話し合われてきた。富士通の半導体事業切り離しは、いうならば敗戦処理なのである。
お荷物を手放すことによって、富士通は立ち直れるのだろうか? なにしろ、お家騒動で有名な会社だ。常々、ガバナンス(企業統治)に問題あり、と指摘されてきた。
最近では、09年9月、野副州旦社長(当時)が辞任。富士通は辞任の理由を「病気療養のための自発的辞任」と発表した。その後、野副氏は自らの社長辞任の取り消しを求める文書を提出。富士通の実力者である秋草直之・取締役相談役らから「社長として不適格」と辞任を迫られたと暴露し、「病気療養のため」としてきた富士通の説明を完全に否定した。
翌年の10年3月6日、富士通は臨時取締役会で野副氏を相談役から解任。同時に、当初の社長辞任の理由を翻し、「付き合うのにふさわしくないと判断した企業と関係を続けた」ための事実上の“解任”と示唆した。富士通から付き合ってはいけないところと名指しされた企業が「反社会的勢力と受け取られかねない」と猛反発するというオマケまで付いた。
社長の解任はお家騒動だったという事実が社外にも明らかになり、富士通は経営陣の結束力に一抹の不安を残した。
(文=編集部)