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永濱利廣「“バイアスを排除した”経済の見方」

中・低所得層のさらなる低所得化が必ず加速する理由…世界の格差縮小、国内の格差拡大

文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

 そこで、金利を引き下げて需要を刺激して危機前の潜在GDPに戻す政策が有効と思われるが、問題なのは従来の金融政策が効かないことだ。すなわちリーマン・ショック(08年)のような極めて重大な危機が発生したため、家計や企業といった経済主体の消費や投資行動が大きく減退、政策金利をゼロまで引き下げても、元の状態に回復しなくなる(景気に中立な実質利子率<自然利子率>がマイナス)。金融政策が限界に直面した状態だ。

 この状態では、財政政策で潜在GDPを引き上げない限り、危機前の潜在GDPの水準には永遠に戻らない。

 こうした特徴は近年の米国経済でみられることから、サマーズ氏が長期停滞論と提唱した。ただ、リーマン・ショック以降の世界経済を見渡しても、日欧はじめ多くの国で成長が鈍化しており、同様に長期停滞論が指摘できる。つまり、世界的に経済のパイが広がらなくなっているのである。そのため、限られたパイを奪う武器として暗黙の通貨安競争が展開されている。

中間層以下の低所得化

 主要国に通貨安競争を誘発しやすい背景には、格差拡大に伴う中間層以下の低所得化が政治社会問題化していることだ。

 筆者は、先進国で富裕層と中間層以下の格差が広がってきた背景には、経済のグローバル化の進展があると見ている。東西冷戦の終結により資本主義国と社会主義国を分断していた市場の垣根がなくなると、先進国は新興国の安い労働力が使えるようになり、新興国に工場をつくるなどして、資本を新興国に移していった。新興国は安い労働力を武器に先進国から投資を受けて、経済成長を後押しする。

 このように先進国と新興国の市場が一体化すると、それまで先進国の中低所得層が担ってきた仕事は新興国の安い賃金の労働者にとって代わられる。すると、先進国の中低所得層の賃金は下落圧力がかかり、高いスキルを持つ特定の層との間で、格差が広がる。先進国と新興国の格差が縮まる一方で、国内の格差が広がることは、経済のグローバルのなかで必然となっている。

 経済がグローバル化すると、企業は国境に関係なく最適な立地に動く。そうなると、中低所得者層の雇用機会や所得を確保するような政策が重要性を増し、通貨政策面では自国通貨を下げ、自国の製造業やサービスの仕事を確保する方向に動く。その結果、製造業や観光産業などの競争が有利になる通貨安競争が広がりやすくなるといえよう。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。
第一生命経済研究所の公式サイトより

Twitter:@zubizac

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