半導体大手のルネサス エレクトロニクス(東証1部上場)が先ごろ、米国の同業であるインターシル社(米カリフォルニア州)を32億1900万ドル(約3250億円)で買収すると発表した。新聞報道等では「攻めの経営に転じた」「シナジー(相乗効果)が期待できる」などとおおむね前向きな評価をしている。一方、一部市場関係者の間では「とんでもない高い買い物をした」と手厳しい声が上がっている。
ルネサスは売上高の約半分が車載用で、エンジンなどに使われるマイコンが中心。インターシルは電圧制御用の「アナログ半導体」と呼ばれる産業用が中心だ。これがルネサスとの事業間におけるシナジー効果への期待につながっている。
買収金額の3250億円についてルネサスでは、6月末時点で約4000億円ある手元資金を充当し、新規の借り入れや増資は検討していないとしている。呉文精社長は会見で「買収効果は数年先に170億円以上」と表明している。ルネサスが日・欧、インターシルが米・中に強みがあり、現存の商品をお互いの顧客に販売すればすぐに相乗効果があると自信をみせた。
のしかかる「のれん代」
これに対し、業界に詳しい調査機関のアナリストは「高値づかみの買収」と手厳しい見方を示す。同調査機関の試算によれば、今回の買収でのれん代が約2000億円に上ることが、その根拠となっている。
「のれん」とは、物質的な価値はないものの、ブランドや品質などの無形の資産。買収時には企業の本来価値に上乗せして評価する。買収後に償却していくが、思うように業績が伸びない場合などには、減損リスクも出てくる。日本基準の20年で償却した場合、この間は年間100億円の償却費が発生し、利益の押し下げ要因となる。
インターシルの2015年12月期の当期純利益は700万ドル(約7億円)。14年12月期にはそれより多くの利益を上げているが、負担はかなり大きい。売上高でも15年は520億円と、ルネサスの6932億円(前期実績)の10分の1以下だ。将来的な減損リスクが垣間見える。
タイトロープをうまく渡らない限り、財務が傷む公算が大きい。手元の現金は1000億円に満たず、経営の先行きに暗雲が漂う可能性もある。