ルネサスは16年12月期の通期見通しは公表していないが、16年4~9月期の連結決算は減収減益になる。売上高は前年同期比17%減の3010億円、営業利益は59%減の260億円、純利益は80%減の115億円の見込みだ。
巨額買収に対する株式市場の反応は冷ややかだ。「割高」とするアナリストの指摘が相次いだ。ルネサスは結果で示すしかない。
ルネサスが巨額M&Aによって方向性を打ち出したことで、次の焦点は産業革新機構の出口戦略に移った。
ルネサスを「買収王」の日本電産の永守氏には渡さない
今年6月の株主総会でルネサスは日本電産前副社長の呉文精氏を社長に起用した。ルネサス株式の69.1%を保有する革新機構は昨年、日産前副会長の志賀俊之氏を会長兼最高経営責任者(CEO)に迎えている。
革新機構は3~5年先を見据えて、ルネサス株式の売却先を探している。カギを握るのは、主要株主であるトヨタや日産など自動車業界の動向だ。自動車のエンジンの制御で重要な役割を果たすマイコンは、ルネサス製が圧倒的に多いからだ。
経済産業省や自動車業界は、“日の丸半導体”会社として救済したルネサスが、外資系や自動車業界の利益に背を向ける企業には渡したくないはずだ。
15年6月、ルネサスの会長兼CEOに就いた遠藤隆雄氏(元日本オラクルCEO)は、半年後の12月に辞任に追い込まれた。ドイツの半導体大手、インフィニオンテクノロジーズと資本提携を進めようとして、革新機構や自動車業界の反感を買ったためといわれている。そして日産OBの志賀氏は、ルネサスの次のトップに呉氏を据えた。
呉氏は08年6月から日産系の部品メーカー、カルソニックカンセイで社長を務め、13年6月、産業用モーター大手の日本電産の副社長に招聘された。一時は次期社長候補と目されていたが、創業者である永守重信会長兼社長と対立し、15年9月に日本電産を退社した。日本電産を追われた呉氏を、革新機構の志賀氏がルネサスのトップにしたのは、「永守封じ」(国内の自動車メーカーの首脳)とされている。
「買収王」と呼ばれる永守氏は、4月の日本電産の決算説明会で「買う可能性がある」と、ルネサス買収に意欲を滲ませた。革新機構や自動車業界にとって日本電産は外資系同様、好ましい相手ではない。日本電産が自動運転のキーパーツとなる半導体を握ることに警戒感が強いのだ。