そんな特異な会社で井阪氏は社長として近年辣腕を振るってきた。しかし、それはあくまで鈴木CEO(最高経営責任者)のもとでのCOO(最高執行責任者)としてであり、セブン-イレブンというひとつの事業会社以外にまったく経験を広げることはないままに、持ち株会社のトップに就任させられたのである。
セブン&アイHDはコンビニ以外に百貨店、総合スーパー、金融会社を擁する。大きな違いは、「ひとつだけでなく複数ある」ということだ。この点が、一事業会社とは決定的に異なる構造として、井阪氏に襲い掛かった。
井阪氏の不慣れと混乱は、着任当初の「一枚岩の組織を目指す」としたことにみてとれた。その方針に従い井阪氏は、セブン&アイHD社長に着任すると、事業会社別に月1回の会合を開き、経営課題を洗い出して共に成長戦略を描こうとしてきた。ところが、「事業会社とともに一枚岩で成長を目指す」などということは、持ち株会社の経営者がやってはいけないことなのである。
今回、エイチ・ツー・オー リテイリングへの譲渡が発表されたそごう神戸店など関西の3店舗は、譲渡されてうれしいかといえば果たしてどうなのか。一方、今回譲渡されない非戦略店舗では、リストラと経費削減が必至だ。そごう・西武の社内には「グループの中で本当のリストラに取り組んできたのはうちだけ」という不満の声が多いと報じられている(10月20日付日本経済新聞朝刊より)。
総合スーパー事業であるイトーヨーカ堂では、17年2月期までに約20店舗を閉鎖、最終的には20年までに約40店舗を閉鎖することが発表された。加えてこれまで好調とされてきたイトーヨーカ堂を核店舗とする大型ショッピングセンター「アリオ」(Ario)の新規出店も凍結する方針だという。これらの決定に対し、「赤字幅は着実に減らしている。どうしてスーパーばかり悪者にされるのか」などと、社内にも不満がくすぶっていると報じられている(同紙より)。
「一枚岩になってやっていく」などということを、井阪社長が信じていないことを私は望む。「そんな声には耳を貸さず、返り血を浴びてでも粛々と改革を進めていく」という覚悟がなければ、企業再生などできはしない。リストラされる可能性のある立場の事業会社と、それを判断・決定しなければならない持ち株会社の経営者の立場と覚悟は、異なるところに求められるのだ。