「皆の意見を聞いて」の限界
「稽古不足を幕は待たない」タイミングで舞台に立たされた井阪氏は5月の社長就任時、「100日待ってくれ」「100日後に『100日プラン』を出す」と正直に告げた。これは大正解だったと思う。井阪氏は直感的に優れている経営者なのではないかと感じた。
私自身もこれまで経営者として企業再生に入った時は、「3カ月戦略」ということをよく言っていた。「着任して3カ月目には再生戦略を立てろよ、さもなければ何も始まらないよ」ということだ。
10月6日の発表会は、中期3カ年計画も含めて、まさに井阪氏の答案提出となったわけだ。冒頭で井阪氏は次のように述べ説明を始めた。
「グループの経営をどう舵取りするか。社内外多くの方々の話に耳を傾け、考え抜いてきた」
しかし、「皆の意見を聞いて」「一枚岩を目指す」やり方では、何も大きなことができない。そこが従業員社長として祭り上げられた井阪氏の手法であり限界であろうと私は感じた。今回の中期3カ年計画取りまとめの中心になったとされる「改革委員会5人組」に創業家出身の役員がいるというだけで、祖業であるイトーヨーカ堂事業への包丁さばきが鈍っていることがうかがえる。
物足りない「100日プラン」
私は4年前から、セブン&アイ・グループは祖業であるイトーヨーカ堂を売却せよ、そこで得られる何千億円というキャッシュをコンビニ事業の世界展開に投入せよと指摘してきた(15年1月31日付け本連載記事『セブン&アイ、株価下落の元凶“お荷物”ヨーカ堂を即刻売却すべき 超優良グループに変身』)。今年に入り、投資ファンド、サード・ポイントも同じことを要求した。
今回の発表でも、百貨店事業ではエイチ・ツー・オー リテイリングに3店舗が譲渡されたことが発表されたが、それ以外の店舗はどうするのか。鈴木氏が過度に傾斜していたオムニチャネル事業を単なるマーケティング・ツールへとリ・ポジショニング(転換)し、鈴木氏が「世襲への布石ではないか」と腹を探られていた主因であった次男・鈴木康弘取締役を同事業の責任から外したのも正しいことだ。