サクサクの衣で牛肉を包んで揚げ、「レアな肉のうまみを堪能できる」というふれこみの「牛かつ」。昨年以降、メディアでこぞって取り上げられ、一時期は専門店が大増殖したほどだ。
ところが、牛かつブームはすでに終息の気配が漂っているという。ほんの数カ月前まで大行列ができていた牛かつ専門店に、いったい何が起きたのだろうか。
平日、抜群の立地でガラガラの専門店も
以前なら、洋食店のメニューにしかなかった「牛カツレツ」が、和風でレアな味を楽しめる「牛かつ」として台頭したのは、昨年のことだ。以降、とんかつと肩を並べるほどの人気となり、専門店が次々に誕生した。
このブームをけん引したのが「牛かつ もと村」だ。東京・渋谷に本店を構えるもと村は、まさに牛かつブームの火付け役。店の前には常に多くの人が列をなし、2時間待ちも珍しくないほどだった。現在は都内に10店舗、大阪に2店舗を構える。
また、急速に店舗数を増やしたのが京都発の「京都勝牛」。東京中心のもと村に対して、勝牛は関西に多く店舗を持ち、現在は全国26店舗、韓国に1号店をオープンさせるなど海外進出も果たしている。しかし、一方で昨年12月にオープンした新大久保店は、今年7月末に1年ももたずにひっそりと幕を閉じた。
また、以前は行列店として有名だったもと村も、今は並ばずにすんなり入ることができる。ほかに牛かつ店といえば、御徒町本店をはじめ7店舗を展開する「あおな」や秋葉原の「壱弐参」、新橋の「おか田」などがある。
9月下旬の平日夕方、もと村の歌舞伎町店を訪れると、待ち時間はゼロ。店内にいる客も、わずか2組だった。歌舞伎町のランドマークである「TOHOシネマズ 新宿」の目の前にあり、多くの外国人観光客でにぎわう抜群の立地であることを考えると、この集客状況は悲しいものがある。
かつてブームを巻き起こした牛かつの人気は、なぜ急速に下降したのか。その原因のひとつとして、フードジャーナリストは「男性ウケの悪さ」を挙げる。
「牛かつは、『限りなくレアに近い状態で牛肉を食べられる』というのが売りです。しかし、実際に食べればわかりますが、衣のついた刺身のような味わいの牛かつは“おかず”としていまいちで、ご飯が進まない。また、肉は思ったより小さく薄切りで提供されるので、男性客は『ボリューム不足』と感じてしまう。そのため、1回食べたら『もういいかな』と思う人が続出しているのです」(フードジャーナリスト)
どの店も、牛かつ、ご飯、みそ汁の定食セットで、1300円前後の価格設定。ランチとして考えると割高で、そのわりに満足度も低いのだ。