こうしたヨーロッパのような「同一労働同一賃金原則」が日本でも適用されたら、非正規社員の待遇は大幅に改善することになる。だが、同一労働同一賃金といっても、ヨーロッパでは職務経験、勤続年数、資格などによる賃金格差は合理的理由になるとされている。
では日本に適用した場合、何が合理的理由となり、何が合理的理由とならないのか。
政府は20日、働き方改革実現会議で、同一労働同一賃金の実現に向けたガイドライン案を示した。そのなかで、正社員と非正規社員の基本給について不合理な差を認めないとし、非正規社員にも昇給や賞与の支払いを原則行うこととした。さらに、時間外手当や深夜・休日労働手当、通勤手当、慶弔休暇、病気休職などについても、正社員と非正規社員の間で差を設けることを原則認めないとした。
だが、ガイドライン案は正社員と主に有期契約社員、パートタイム社員の間でどのような格差が問題になるかを具体的な事例を挙げて詳しく書いているが、派遣社員についてはこう書いているだけである。
「派遣元事業社は、派遣先の労働者と職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情が同一である派遣労働者に対し、その派遣先の労働者と同一の賃金の支給、福利厚生、教育訓練の実施をしなければならない。また、職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情に一定の違いがある場合において、その相違に応じた賃金の支給、福利厚生、教育訓練の実施をしなければならない」
同じ非正規社員でも派遣社員だけはややトーンダウンした印象は拭えない。じつはこのなかの「派遣先の労働者と職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情が同一である派遣労働者」という表現は、現行法の有期契約社員と正社員の無期契約社員の均等待遇を定めた労働契約法20条、正社員とパートについて定めたパートタイム労働法9条と同じ内容になっている。これまで派遣社員と派遣先の社員の待遇を同じにしなさいという規定はなかったが、これを新たに盛り込むだけのことになるのか。
もちろん、それだけでも通勤手当や福利厚生施設(食堂、休憩室、更衣室など)、教育訓練などは派遣先社員と同じにする必要がある。また、職務内容や配置などの事情が同じであれば、派遣先労働者と同じ待遇にするよう求めている。さらに一定の違いがあった場合は、均衡待遇、つまりバランスのとれた処遇にしなさいとしている。
派遣労働者については派遣元の正社員との格差、派遣先の社員との格差の是正という二重の違いがある。契約社員やパートのような直接雇用の非正規の処遇と同じにするのかどうかも含めて、具体的な関連法改正案のとりまとめを通じて非正規社員の待遇がどこまで改善されるのかが試されることになる。
(文=溝上憲文/労働ジャーナリスト)