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航空経営研究所「航空業界の“眺め”」

米国、今まで他国に航空自由化押し付け、今度は米国への参入規制の横暴

文=牛場春夫/航空経営研究所副所長

米国内では歓迎の向きも

 米国側では、NAIや中東3社の米国乗入れに反対する人たちばかりではない。ジェットブルー航空、ボーイング、米旅行協会(U.S. Travel Association)の3つの企業や団体は、彼らの乗入れを大歓迎だ。ジェットブルー航空は、中東3社と米国内線コードシェア便協定を締結し、中東3社の乗客の米国内複数都市への乗り継ぎ便を運航している。その上、数年先には大西洋欧州線開設を計画しているので、現行のオープンスカイ協定の維持が必要なのだ。

 ボーイングにとっては、NAIや中東3社はボーイングの新造機を大量に購入してくれるお得意様だ。米旅行協会は訪米インバウンド旅客の増加を欲しているのだから、訪米旅行者を運んでくれる航空会社の供給は、多いほど良いことになる。

 米国は、自国の航空会社の路線網を世界に拡大するために、長年米航空会社の乗入れ先各国に、国際航空の乗入れ地点数・航空会社数・供給便数・以遠権・運賃設定権のすべてを自由化するオープンスカイ協定を要求してきた。それに合意した国に対しては、場合によっては、その国の航空会社と米国の航空会社間で運賃の共同設定まで認める“飴玉”を用意している。運賃共同設定とは聞こえが良いが、要は運賃談合(カルテル)である。

 本来は独占禁止法で禁止されるカルテルを「独占禁止法適用除外」(Antitrust Immunity/ATI)として認めてしまおうというのだから、おかしな話である。このATIに基づいて全日空も日本航空も、それぞれユナイテッド航空、アメリカン航空と2社間提携している。

 一方でオープンスカイ協定という自由化を標榜しながら、他方で自由化とは真っ向対立する運賃談合まで認めてしまうというのは、なんとも矛盾した“二枚舌”ではないだろうか。DOTは、そこまでやってオープンスカイ協定を押し通してきた。そして米国は、今では100カ国以上との2国間協定と、EUを含む30数カ国との多国間協定によるオープンスカイを実現している(ちなみにオープンスカイにおけるATIの取り扱いは、例外的に米司法省(DOJ)ではなくてDOTの所管)。

身勝手なご都合主義

 それが最近では、オープンスカイ協定を押しつけた各国の航空会社が国際競争力をつけてきて、米企業と互角、むしろより優位な競争ができるようになると、今度は協定見直しを持ち出して自国への乗り入れを制限することを画策し始めている。これは身勝手なご都合主義といえないのだろうか。

 米メジャー3社は、企業寄りのトランプ大統領に大きな期待を寄せている。トランプ大統領は、イランとの核合意(15年7月)の破棄を表明している。そうなれば、ボーイングは、近い将来80機に及ぶ大量の航空機発注を計画中のイラン航空を、見込み顧客名簿から削除しなければならなくなるだろう。もちろん、イラン航空の35年ぶりのテヘラン-ニューヨーク線再開計画も頓挫する。

 また、NAIや中東航空会社の乗り入れを制限するならば、米旅行協会が主張するように、訪米旅行者の増加に少なからずの負の影響を与えるだろう。そして、54年ぶりに国交正常化したキューバとの関係を打ち切るならば、米アウトバウンド旅行(特にクルーズ)の一大人気目的地(寄港地)になると期待されている市場がなくなってしまう。2月3日にシアトルの判事により差し止めされた、テロの懸念がある7カ国からの難民と旅行者の入国を一時禁止する(所謂Travel Ban)大統領令が万一導入されるようなことがあれば、米国旅行業界に対する影響は計り知れない。
(文=牛場春夫/航空経営研究所副所長)

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