フジ・メディア・ホールディングス(フジHD)が2014年6月に開催した株主総会に対し、株主2人が決議取り消しを求める訴訟を起こしていたが、東京地裁(大竹昭彦裁判長)は昨年12月、原告の訴えを棄却する判決を下した。しかし、地裁は「総会の決議方法に不公正な点があった」「総会での会社側の説明は適切さを欠く」と認めた。
この裁判で原告側が追及していたのは、総会での質問者16人のうち8人がフジテレビの社員株主であり、大野貢フジHD兼フジテレビ総務部長の指示に沿った「ヤラセ質問」を行ったとされる点、そしてそれにより一般株主の質問権・株主権を侵害したという点だ。また、議長を務める日枝久会長は質疑打ち切りを強行し、株主の修正動議も無視したとされている。
「ヤラセ質問」の所在については、原告側に寄せられた内部告発によって明らかになったものだが、裁判では、フジHDもその8人が、フジテレビの統括担当局長、局次長、部長らの経営中枢幹部であったと認めた。大野部長の証言によれば、総会のリハーサルは2回行われ、日枝会長もこれに参加していたという。
また、総会では役員賞与に関して虚偽の回答も行われていた。フジHDは「個々の支給額は昨年と比較しまして約15%減額」と説明していたが、実際は役員1人当たりの支給額は前年よりも1.1%増額となっていた。民放キー局の視聴率競争で“一人負け”といわれるフジテレビだが、それにより親会社であるフジHDの経営状況は悪化しており、株主総会では毎回、高額な役員報酬が問題視されていた。総会で株主たちに虚偽の報告を行うフジHD経営陣に正当性はないと原告側は主張していたわけだが、総会決議取り消しまでは認められなかった。
ハードルが高い総会決議取り消し
株主総会決議の取り消しを求める裁判は、株式会社制度を守るという商法・会社法の本質もあって、極めてハードルが高い。原告側によれば、取り消しが認められたのは戦後6件しかないという。商事部と称される東京地裁の民事第8部の裁判官は、「個人株主らが企業を訴えると、まず、企業側をどう勝たせるかを考える」とさえいわれるほどだ。また、民事第8部の裁判官に関しては、自分が担当した裁判の会社側法律事務所へ天下りしていた事例があるなど、民間企業との癒着構造が指摘されることも少なくない。
今回の裁判においても、裁判長はフジHDのずさんな総会運営を批判しつつ、「決議を取り消さなければならないほどの重大な瑕疵があるとはいえない」「本件各決議の方法が著しく不公正であるとまでいうことはできない」としている。どの程度なら「重大な瑕疵」なのか、どの程度なら「著しく不公正」なのか、この判決ではまったく判然としない。
このままでは、一般株主の権利は侵害されたまま、「ヤラセ・八百長総会」の“やり得”ということになってしまう。原告側は今回の判決を不服として、東京高裁に控訴している。
(文=横山渉/ジャーナリスト)