9月3日、米ゼネラルモーターズ(GM)と本田技研(ホンダ)が、北米での戦略的アライアンスに向けて合意したと、大々的に報じられた。そのなかで、主な協業検討の領域として、以下の3点が強調されている。
(1)プラットフォーム共有による規模の拡大及び、パフォーマンスの向上
(2)規模と効率を高めるための共同購買
(3)お客様の期待を超える研究開発とコネクテッドサービス分野における協力
このようにアライアンスの内容は、北米市場における自動車部品の共通化、共同購買、EV(電気自動車)や自動運転にかかわる研究開発の協業など多岐にわたるが、もっとも注目すべきは、ホンダのGMへのガソリンエンジンの供給だろう。
世界の自動車市場
こうした提携の背景には、何があるのだろうか。かつて長きにわたり自動車メーカーのトップに君臨していたGMは、現在4位にまで低下している。しかも、1位フォルクスワーゲン、2位トヨタ自動車、3位ルノー・日産自動車・三菱自動車連合が販売台数1000万台を突破しているなか、GMは770万台と大きな差をつけられており、5位の現代自動車(720万台)に抜かれかねない事態にまで陥っている。さらにホンダは520万台と、7位に甘んじている。
こうした状況のなか、トヨタなどと比較し、売上高営業利益率や1台当たりの純利益など、稼ぐ力が大きく低下しており、両社ともに経営の効率化が強く優先される結果になったものと思われる。
もちろん、お互いにメリットがあるWin-Winのディールであるからこそ、アライアンスを締結するわけだが、どちらにとってより有利になるのだろうか。
実際、ホンダ内における事前協議では「エンジンを供給してしまうとGMにいいとこ取りをされてしまう、商品の独自性が薄れる」など、アライアンスに後ろ向きな意見も少なくなかったようだ。
GMがいまだ4位の座を確保できている理由は、一言で言ってしまえば「昔取った杵柄」であろう。つまり、北米を中心にGMというブランドや全国にきめ細かく張り巡らされた販売網によるものであり、決して自動車の品質によるものではない。よって、大きく出遅れてしまったガソリンエンジンの技術に多額の投資をするならば、他社からの調達という手段に割り切り、次世代の技術であるEVや自動運転に注力するほうが確かに賢明な選択であろう。
一方、技術には定評があるものの、販売に悩むホンダがGMの販売力を利用し、量産効果を上げて、稼ぐ力を向上させようとすることも頷ける。しかし、重要なポイントは、稼いだ資金をいかに大胆に新分野の技術に投資できるかではないか。
イノベーションのジレンマ
今となっては、多くの人が「早晩、ガソリン車はなくなり電気自動車に取って代わられる」と思っていることだろう。もちろん、自動車メーカーも同様の認識だろうが(一部には燃料電池自動車といった意見もあるかもしれないが)、とりわけガソリンエンジンに強みを持つ日本の自動車メーカーは、他国のメーカーほどは意識の転換ができていないのではないか。つまり、大胆にガソリンエンジンへの投資を削減し、次世代の技術に振り分けられていないのではないか、ということである。
恐らくエンジニアのなかには「まだまだガソリンエンジンにはイノベーションの余地があり、極めていけば電気自動車を圧倒する性能やコストを実現できる」と考えている人も多くいることだろう。
しかし、それが仮に正しくとも、残念ながら長期的な企業の大きな発展には貢献しないだろう。なぜなら、消費者が常に合理的な判断をするとは限らないからである。
ソニーの失敗
旧世代の技術といえる、ブラウン管テレビの時代、ソニーはブラックトリニトロンに代表される高い技術を保有し、圧倒的なトップメーカーであった。しかし、こうした技術の優位性が仇となり、ブラウン管テレビに固執したため、液晶への開発投資に完全に乗り遅れてしまった。
実際、液晶テレビが市場に現れた頃は、ブラウン管テレビのほうが画質は優れていたようだが、そうした品質よりも、多くの消費者が「テレビは液晶」というムードに完全に乗っかってしまったということだろう。
人間が既得権にこだわるように、企業が自社の強みに固執してしまう傾向から抜け出すことは極めて難しく、勇気の要ることではあるが、長期にわたる成長を目指して果敢に攻めてもらいたい。
次世代技術に代わっても、世界中で日本の自動車が見られることを期待する。
(文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授)
『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』 プレミアム商品やサービスを誰よりも知り尽くす気鋭のマーケティング研究者が、「マーケティング=高く売ること」という持論に基づき、高く売るための原理原則としてのマーケティングの基礎理論、その応用法、さらにはその裏を行く方法論を明快に整理して、かつ豊富な事例を交えて解説します。
"