この合併に反対の狼煙をあげたのが、旧サムスン物産の大株主である外資系ファンド、エリオット(7.12%)やメイソンキャピタル(2.18%)、日盛新薬(2.1%)など。これに対し、創業者一族の提案に賛同していたのは、李在鎔副会長をはじめとした特別関係人(13.92%)と、現代財閥から独立した建材メーカーのKCC(5.96%)。
「実はこのとき、旧サムスン物産の株式を不当に安くするような操作があったのではないかと疑われ、サムスン物産の主要株主だった外資系ファンドが合併に反対したのです。そうしたファンドを抑え込み、旧サムスン物産の第3の株主である政府系の国民年金公団(11.21%)やそれ以外の韓国機関(11.05%)の支援を取り付けるために、政府に働きかけていたといわれています」(地元財界人)
しかし、朴大統領は経済民主化の名のもとに、財閥とは距離を置いていた。
「サムスングループは財閥のなかでも情報収集能力に秀でている。その情報力を駆使して見つけ出したのが、朴大統領の親友、崔順実(チェ・スンシル)被告だったのです」(同)
そして15年7月24日には旧サムスン物産でも69.5%の賛成で合併は承認され、同年9月1日には合併して新サムスン物産が誕生、同年9月14日には再上場を果たした。その後、サムスングループは朴大統領の金庫番、崔被告が実質実権を握る「ミル財団」と「Kスポーツ財団」に計430億ウォン(約42億円)を提供した。
これが贈収賄に当たるとして、朴大統領の不正を解明するために任命された特別検察官は李在鎔容疑者の取り調べを行い、今年2月14日、ソウル中央地裁に横領容疑などで逮捕状を請求した。
「韓国の財閥トップというのはこれまで、国の経済を支えているという意味で、犯罪を犯しても穏便に済まされていた。仮に有罪判決を受けても、執行猶予がついたり、実刑でも恩赦などですぐに釈放されていました。だから今回も逮捕は難しいと思われていました」(韓国経済記者)
韓国国民の世論
案の定、ソウル地裁は証拠不足などを理由に逮捕状の請求を一旦は棄却した。ところが状況を一変させたのは、その後の世論の変化だった。
「韓国国内から朴大統領に対する不満が噴出して、市民による『ロウソクデモ』に発展しました。そして特別検察官は朴商鎮(パク・サンジン)サムスン電子社長がドイツで崔被告に会った後に作成したメモを見つけ出したことで、ソウル地方裁判所は証拠隠滅の疑いがあるとして逮捕状を受理したのです」(韓国の弁護士)
罪状は贈賄罪、横領、財産国外隠匿、犯罪収益隠匿、国会証言違反(偽証)の5つ。
「今回はかなり厳しく処罰されるでしょう。懲役5年の実刑という可能性もあります。今は世論の風当たりも強いので、執行猶予や恩赦はやりにくいと思います」(同)
サムスングループは今後、コントロールタワーを担う未来戦略室を廃止し、各系列会社の代表取締役と取締役会を中心とした自主経営を強化。また、未来戦略室の崔志成(チェ・ジソン)室長(副会長)と張忠基(チャン・チュンギ)次長(社長)ら幹部全員が辞任した。グループ60社の社長で組織される「社長団会議」も廃止する。サムスングループは事実上の解体に向かっている。
(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)