トランプ氏のメキシコ政策の変更で、もっとも影響が大きいとみられる日産自動車の17年1~2月累計の生産台数は1.3%減、輸出台数は8.5%減と減速した。トランプリスクの高まりで、独ダイムラーとの合弁事業に暗雲が漂う。
2月3日付「ブルームバーグ」は、「日産自動車と独ダイムラーは計画しているメキシコ工場での提携内容を見直している」として、「独ダイムラーのディータ-・ツェッチェCEOが、合弁会社での小型高級車生産の内容を見直していることを明らかにした」と伝えた。
両社は14年にメキシコでの合弁生産で合意。17年に日産の「インフィニティ」、18年にダイムラーの「メルセデス・ベンツ」の生産を始める計画だ。当初の年間生産能力は23万台を予定していた。
日産の田川丈二常務執行役員は2月9日の決算発表の席上、メキシコ工場について、「予定通り進んでおり、17年度中にインフィニティをつくることに変更はない」と明言した。NAFTAが見直された場合の対応については「日産は各国の規制や基準に沿ったかたちでビジネスをしており、それらが変われば対応する」として、メキシコ事業の戦略の見直しに柔軟に対応する姿勢を示した。
日清紡HD、旭硝子、旭化成が生産拠点を見直し
メキシコに進出している日系企業は約1000社に上る。メキシコは人件費が割安なことに加え、NAFTAにより大市場の米国に関税なしで輸出できるのが最大の魅力だ。そのため、かつて日本企業は空前のメキシコ進出ラッシュに沸いた。
トランプ氏がNAFTAの再交渉を打ち出したのは、日本企業にとっては想定外だった。NAFTAの見直しが決まれば、日本企業はメキシコでの生産・輸出戦略の大幅な修正を迫られる。
日清紡ホールディングスは、メキシコを想定していた自動車ブレーキ摩擦材の新工場計画をいったん白紙に戻した。当初、年内にも工場用地を選定する考えだったが、奥川隆祥取締役常務執行役員は2月8日の決算会見で「メキシコについては白紙だ」と発言した。米国内で新工場建設となる公算が大きい。
旭化成が自動車向け機能性樹脂の新工場計画を白紙撤回する考えを示しているほか、旭硝子も自動車用フロントガラス工場の増強を見直す方向で検討に入った。
これに対して日本自動車部品工業会の会長を務めるヨロズの志藤昭彦会長は「メキシコでの生産について能力増強を続ける」方針を明らかにした。「メキシコは米国以外のさまざまな市場への輸出拠点になる。労働者も勤勉で競争力は非常に高い」と説明した。
ヨロズはサスペンションが主力の自動車部品メーカーで、日産やスズキに製品を納入しており、昨年から日産向けにメキシコ工場で設備を増強している。
NAFTAの再交渉はいつになるのか。3月9日付「ブルームバーグ」は、「ロス米商務長官は『NAFTA再交渉は今年後半まで始まらないだろう』と述べた」と報じている。
各社はNAFTAの再交渉の進捗状況に一喜一憂しながら、メキシコ戦略を軌道修正することになる。
(文=編集部)