3月27日に東京地裁から破産手続き開始決定を受けた旅行会社てるみくらぶ(負債総額151億円)の現預金が、この半年で12億円減少していた。東京商工リサーチの発表によると、2016年9月期に14億円だった現預金は、破産申請時に2億円に減少していたという。
同日に記者会見した山田千賀子社長は「一昨年から出すようになった新聞広告の掲載費が経営を圧迫して、高コストビジネスになってしまった」「航空機材の小型化による座席数減少で、余剰座席の確保が難しくなった」と説明した。
破綻の原因はそれだけはない。座席の確保が困難になった背景として、航空アナリストの杉浦一機氏は「航空会社が客単価アップのためにエコノミークラスの座席を減らしていること」「航空会社が正規割引料金を設定して、客が安い航空券を直接購入できるようになったこと」「格安航空(LCC)が急速に増えたこと」を付け加える。だが、もっと奥深い背景があるという。
杉浦氏は、てるみくらぶ破綻の本質的な原因は「国土交通省の航空行政の変更にある」と指摘する。
10年に羽田空港の国際線定期便が運航開始になって以降、航空会社が「羽田シフト」をすると、成田空港の発着便数が減少することを恐れた。それを防ぐために国交省が国内外の航空会社に対して内密に課したのが、いわゆる「成田ルール」である。
「国交省は成田ルールの存在を認めていないが、成田便を廃止して羽田便にシフトすることを認めず、格安航空券の供給源になっていた」(杉浦氏)
さらに、海外の新規就航会社に対しては、関西空港便を運航しなければ成田への運航を認可しない「関空ルール」がやはり内密に課せられたが、どちらのルールも海外からは悪評な一方で、成田、関空ともLCCの増加で活況になったことから、昨年秋頃にひそかに2つのルールとも緩和廃止された。その結果、年明けから、関空便の廃止や羽田空港シフトが顕著になり成田・関空便が大きな供給源だったエコノミー席の余剰在庫が減り、座席の仕入単価は急騰していく。杉浦氏は次のように指摘する。
「てるみくらぶの社長は、この動きを知らなかったのではないだろうか。半年間で現預金が14億円から2億円に減ったのも、仕入単価が上がったことが要因だろう。航空政策の変更について破綻に至った今は把握しているだろうが、今年4月に新卒社員を約50名採用することは1年前には決まっていたはずなので、政策変更を知らないまま強気の拡大路線を描いたのではないか」
節度なき営業
さらに杉浦氏が問題視するのは、てるみくらぶが日本旅行業協会(JATA)に納付した弁済業務保証金分担金と販売代金総額の差異である。納付額2400万円に対して、弁済限度額は5倍の1億2000万円。一方、一般旅行客への販売代金総額は99億円。
「万が一の場合、弁済限度額に自己資金を加えてカバーすることを考えれば、販売代金総額と弁済限度額の差は2~3倍にとどめておくべきだ。てるみくらぶは、一挙に赤字を消そうと賭けに出るのではなく、節度をもって営業すべきだった」(同)
そもそも許認可事業は市場原理よりも、所轄省庁の行政権で成り立っている。最大のリスク要因は需給動向の急変だけではなく政策変更である。
(文=小野貴史/経済ジャーナリスト)